69話 この気持ちをなんとしょう
上野から浅草など賑わう場所ではあるが、少し奥に入ると、古い建物も多く残っている。
そして、空襲で被害を受けた町だ。小さなお寺さんも沢山ある。
健脚、というか、足の裏で考えを纏める、若しくは気持ちの整理をつけるタイプなので、
文京区から千代田区、台東区、墨田区と無心に歩いたものだ。
夜の奇妙な話
一番寒い時期の東京で、夜の10時くらいだろうかウォーキングをしていた。
浅草方向に行って、くるりと大回りして帰路を闊歩していた。
大きな通り沿いだが車も人も少なく、ガンガン歩けて気分が良い。
ふと見ると雑居ビルの間に古い立派な門があった
古いお寺か旅館のような作りだ。
高い塀に囲まれ少し低い門の上から、椿かサザンカの赤い花が咲き乱れている。
門の上から、こぼれ落ちるほど沢山咲いている赤い花は、夜の中でも艶やかで少し見とれた。
赤い花には白い筋が入り、それが一層、夜の闇の中、赤い花を鮮やかに見せていた。
門の中で木はどのように咲いているのだろう?
と思いながら足を止めて見ていたら、左上の方から水っぽい咳が聞こえた。
タンが喉に絡むような咳である。
イヤホンのipodのレッチリの向こうから、いや近くから?
頭上を見るも、もちろん頭上には何もない。
ゴホゴホ
今度は、右後ろの低い場所から聞こえた。
ゆっくり振り向いて見ても誰も何もない。
何も見えない
なのになぜ
6歳くらいの男の子を
なぜ
黄色っぽいトレーナーに水色のスエットを着ていると
なぜ
咳が出て喉が痛い。苦しい。
と、この子が言っていると
想像するのだろう?
見えないのなら無いのだろう。
なのにナゼこんなに、不安と不快と恐怖が湧くのだろう。
背後に感じる奇妙な気配。
想像と妄想。
作り出してイメージが止まらない。
やはり答えは出ない。
霊感と妄想の差はナンダロウ?
無いものを無いとして終わらないもの。
確かめて何かの痕跡を見つければ霊感。
確かめようがなければ?
今の我の感じているものはナンダロウ?
答えが出ない。
うりゃっ!!!
身震いして気合入れて早歩きから走る。
予定の道を変えて隅田川に向かう。
吾妻橋の手前で、
「帰れ」
渡って向こうの前で、
「着いてくるなよ」
奇妙な気配を感じた時にやるオマジナイ。
橋だか川だか不明だが、渡る時に剥がれる事がある。
自分でも何故やっているのか分からんが、効果はあるようだ。
橋は境を意味すると言われている。
そんなトコだろうか。
下流に下り両国橋を渡り同じ側に着く
その頃には気配は消えていた。
まあ、妄想ではあるが。
40分は余計に歩かされた。
子供の一人の姿は哀しい。
私は子供に怯え、ただ離れてほしいと望んだ。
あの風邪を引いた子供は、赤いこぼれる様な花に暖を求めて佇んでいたのだろうか。
ああ、この気持ちを何としょう。
奇妙に寂しい気配の残る夜だった。
子供の存在に気付いたとき、ただ恐怖した。
しかし後になってから、その存在の哀しさに誰かに何かに祈らずにはいられない。
温かな場所で安らいでほしいと。
他力本願で願っている。




