67話 強く温かな手
そこは、信号が設置されてからも交通事故が多発していた。
中高と住まわせてもらった家は辻にあり、交通事故が多かった。
中学生の頃か。
家に居た時、外でガシャーーーンと事故の音がしたので見に行った。
4tトラックと自転車で、壊れた自転車に絡まるように男の子が倒れている。
家にいた兄と自転車をどかそうとしたら、自転車のタイヤのスポークが男の子の半ズボンの太ももに刺さって突き抜けていた。
近所の人も出てきて手分けして警察、救急車を呼ぶ。
我と兄は切る工具を!と言われペンチとニッパーを持ってくる。
いざ切ろうとすると中で斜めになっているようで、力を加えるとスポークが中でにじり血が湧き出す。
ペンチで固定してくれと兄に頼むと、血と肉を見て貧血を起こしていた。
なんとか出来ないかと焦ると、
「私に貸して!」
と力強いオバサンの声。
「お願いします」
とペンチを渡し、ガッチリと固定してもらい両手でニッパーに力を入れる。
バチンッ!
タイヤに繋がった方を切る。
もう片方は折れ曲がっているので手は出せない。
それでもコレで救急車に乗せられる。
礼を言おうと顔をあげるも、手を貸してくれたオバサンは居ない。
兄に聞く
「ここに居た女性はドコに行った?」
青い顔で首を振る。
やがて救急車が来て男の子を連れて行き、警察が来てトラックの運転手の相手を始めた。
家に戻り手を洗う。
「女って?」
兄が聞く。
「あそこで手伝ってくれたオバサンだよ」
「そんなのは居なかった」
「え?」
「お前だけだった」
顔も見なかった。
手を貸すと言われた時、ちゃんと顔を見て礼を言えば良かった。
力強くて優しい手だった。
その場所は、本当に事故が多かった。
ある日、遅くに家に帰ったとき夜の暗い景色の中、家の前の交差点付近で半透明の人たちが数人転がっていた。
…のを見た気がする。が、気のせいだ。




