65話 Gに非《あら》ず
どうも、ラーメン屋でもカウンターに座る前に、下を覗く癖がついてしまった。
カウンターの下の暗闇への恐怖が残っている。
バーで働いていた事がある。
店を閉じてから灯りを落とした店内で、我は金勘定。店長は調理場で洗い物。
小さな店でカウンターが10席、小さなテーブルが3つしかない。
我は端のカウンターに腰掛け電卓を叩いていた。
目の端に白い物が出た。
見ると椅子3つ隣のカウンターのテーブルの上に白い手が乗っていた。
テーブルの端に手をかけてカウンターの下の暗い中から生えている。
ソレがぐぐぐっと伸び上がりテーブルの上をパタパタ何かを探すように動いた。
手は白く指は細い。
腕は肘がないままにニョロリと長く骨のないような力のない動きをする。
ぺたん。
ぱたん。
手の平で打ったり、手の甲でテーブルを打ったりと、
ぐにゃんぐにゃんと操り糸でもあるかのような動きである。
多分恐怖で声も出ないまま見ていたのだが、手がパタンパタンとテーブルを叩きながら近づいた時、思わず、持っていた帳簿のノートを丸め力いっぱい殴りつけた。
スパーンッ!!!
「お?殺ったか?」
厨房から店長が聞く。
そろそろとノートを持ち上げる。
「いえ、消えました」
「そーかー。まあ、仕方ないか。客の前で出られたら困るけどな」
「ええ…」
ノートを触ってみたが何もない。
もちろん何か着いていたり、濡れていたらすごく嫌だが。
一年ほどソコで働いていたが、そのほかは何もなかった。
Gは頻繁に出没したが。
恐怖を煽ったのは、あの動きなのだと気が付いた。
あのぐにゃぐにゃした動きが、思い出すと不快でたまらない。




