63話 脂性のおっさん
霊感とは何だろう。
実体がないのに見える。声帯がないのに声を発し、臭いも感じることがある。
そして、物質がないのに触覚がある。
この触覚が、なかなかにダメージが大きい。
他の感覚と違って、直接的だからだろうか。
とも考えるが、単にその対象に嫌悪感があったのだ。
生きていたとしても、触りたくないモノだったのだ。
との結論に至った。
20代から30代まで、下駄に膝丈のカーゴパンツが夏服だった。
外出先で、デパートのショーウィンドウのガラスでなんとなく自分の全身をチェック。
足元に黒い丸いものが転がっていた。
それは、残髪少ないバーコードおじさんの頭だった。
コロリと転がりガラス越しに目が合う。
にやりと笑われた。
生理的嫌悪が働いて、足で頭を蹴り上げた。
オヤジの頭は飛んで行った。
重みは感じなかったが、髪の毛の感触とぬるりとした脂肌の感じは、下駄で裸足のくるぶしに思いっきり感触が残った。
おやじの頭は消えていたが、足の感触が消えず気持ち悪く、塩での清めの前に思わず薬局でエタノールを購入して足を拭く。
その日、かなり気持ちが落ち込んでその理由を探したら、
幽霊に遭遇したことより、脂っぽいオヤジの感触が凹みの理由だった。
破壊力がありすぎる。
生首のオッサンは、ああやって女性の足元から見上げているのだろうか。
女性の嫌悪や恐怖の顔が好きなのかもしれない。
蹴り上げずに踏みつければ良かったとも思うが、身体が勝手に反応してしまったのだ。




