60話 30センチのお婆さん
おばあ様は、最初から恋人の正体を気付いていたのだろう。
死者とは、何をどこまで知り得るのか、とても不思議に思った。未来?心を読む?過去を読む?
それを伝える手段を持てれば、守られている家族は安泰だよね。
中学の夏。
家庭科の宿題と、その作り方とあらましで自由研究。作文にして国語の宿題にしようと浴衣を縫った。
祖母から良い反物を貰っていたので、それを使い頑張って作ったので、30歳くらいまで着ていた。
実家が和裁をやっている年上の友人に教えてもらいながら作った。
何度か通いながら。
家で作って、教えてもらうを繰り返し出来上がった。
今度は着付けを教えてもらう。
一度着付けてもらった後、自分で鏡を見ながら指示に従って着ていく。
ふと、映っている大きな鏡の我の肩に、おばあさんの顔があった。
「え?!」
と思うと、顔はするする小さくなり部屋の隅に正座しているおばあさんになった。
振り返るも居ないが、鏡には我の腰あたりの奥に映っている。
「どうしたの?」
声をかけられ、目を外すと消えていた。
「ここは、おばあさまの部屋だったの?」
「そう。おじいちゃんとおばあちゃんの部屋だったけど、おじいちゃんは早くに死んじゃったから、おばあちゃんの部屋の印象が強いな。
…おばあちゃん、居るんでしょ?」
「うん。部屋の隅にね」
それに対し、知っていると答えた。
彼女の兄が恋人を連れてきた時のことを話してくれた。
派手で勝気な女性なので、あまり家族は好いてなかったそうだが、子供が出来ていて急いで結婚しようとの話しになり、母親の白無垢を着させようと着せてみた。
着付けをしているときから、鏡がズレたりして見づらいとは感じていたそうだ。
着付けが完了し、手直しは必要なさそうと判断したときに、三面鏡がガタガタ揺れ出した。
揺れは押さえなければ倒れそうなほど酷く揺れ、彼女が怖がって白無垢を脱いだ途端に収まった。
その後、恋人の赤ちゃんが二股をかけていた別の男性の子だと分かり結婚は流れたそうだ。
「見守っていてくれてんだ。今でもなんだね」
と彼女は言った。
物差しを部屋の隅に立ててもらい鏡から覗いたら、30㎝弱の正座したおばあさんだった。
かなりの重労働だと思う。
今から思えばポルターガイストだったのだ。
今、気付いた。
ポルターガイストって、すごい体験じゃないか。
なんで、その時はポルターガイストだと気付かなかったんだろう。




