59話 雨のそぼ降る帰り道
仕事の終わりに、人で疲れた日は、1時間かけても歩いて帰った。
歩いていると、その日の嫌なことが、過去になり自分の中で終わらせることが出来た。
しかし、夜に歩いていると、時折、不思議な事があった。
仕事が終わって雨のそぼ降る中歩いて帰った。
8時を過ぎてた。
御茶ノ水のお堀側の坂を登っていたとき。
30mほど前には白っぽいパンツスーツの女性が傘をさして歩いている。
車は激しく通るが、歩道に人は少なく気持ちよく歩けた。
イヤホンで音楽を聴いているのに、左側に人の声が「こしょこしょ」的に聞こえた気がして
「えっ?!」
と振り向こうとしたら、首がピキッとつった。
痛たたた・・・とさすったとき
「なんでなのよ~~!!!」
女性の叫び声が、真横の我に風を起こして前方へと去っていった。
左の頬に、髪の触れた感触が不快だ。
その数秒後、前を歩いていた女性がいきなり前のめりに躓く。
両膝と手を濡れた地面に着いている。
そしてそのまま後ろを振り返り我を見、後ろの左右を見た。
キョロキョロと何かを探しながら、手で背中を払っている?さすっている?
背中に、アレが当たったのか?
歩調を緩めない我との距離が半分に縮まった時、女性が立ち上がり走っって逃げた。
何から?
我は何も見えなかった。
ただ、見えない女性の叫び声が通り過ぎた時、シャンプーかリンスの女性の髪の香りがした。
走り去った女性は我がナニかしたと思っていなければいいのだが。
躓き、地面に手と膝をついた女性。
白っぽいスーツだから汚れが目立つよな~。可哀そうだな~と他人事で思った。
しかし、我は通り過ぎた何かを見ないで済んだが、女性らしい髪の香りが妙に生々しく感じた。
あれを生霊というのだろうか。
イヤホン越しの声が、余りにもはっきりと聞こえたので、よほどの大声だったか、近くだったのか。
余り考えたくはない。




