58話 雨の日の臭い
悪霊というのは悪臭がすると、のちに聞いた。
大昔のバイト仲間のこと。
暇な日でバイト仲間数人で無駄話をしていた。
嫌いな物を言い合っていた。我は雷とか言ったかも知れない。
1人が「雨が嫌い」と言った。
雨が降ると腐ったような臭いがするから嫌い。そんな感じで。
梅雨の時期なら、臭いが気になるのも分かるな~等と共感した。
別の日。
雨が降っていた。
バイトが終わり、その時間に上がるのは我とその子、ともう1人の女性。
「お疲れ~」
と言い合い散ろうとしていた。
彼女から去る。傘をさした瞬間、我の隣にいたもう1人の子が息を飲んだ。
その子に目をやると、「何も言うな」的な目配せをするので、そのままにして帰る。
それから数日後だろうか。
やはり雨が降っていた。
駅からバイト先に行く途中に彼女に会い一緒に向かう。
職場に着いてすぐにもう1人も到着した。
「後ろに居たんだけど、声かけそびれちゃった」
と言いながらも雰囲気が妙。
バイト中
「終わったら内緒で時間ちょうだい」
と囁かれる。
仕事が終わって彼女に会う。
やはり、その子の事だったが、予想は激しく超えていた。
「○○さんの、さした傘の下に腐った生首が見えるの。傘をさしている時だけみたい」
「それは傘を替えればいいの?」
「無理だと思う。本屋でパクったって言ってた傘にもいたから。多分、昔から、生まれたときから居るんだよ」
なんて事を聞かすんだよ~う!
その子は見えるだけで何も出来ないという。
ならば何も言うべきではないだろうと、そのままにした。
我は別のバイトを見つけ、彼女等も時期は別だが辞めていった。
この時期の雨の日に生臭い臭いが、海からの逆流で街に漂うと、この時の会話を思い出す。
「雨の日は嫌い」
その理由を彼女は知っていたのかしら?
時々思う。
雨の降り始めの、埃臭い排ガス臭いが気になって、降り出しの雨には出ないようにしているのだが、もしかしたら、臭う何かが我の傘に勝手に相合傘しているのかも知れない。




