55話 護りか不明だが安眠をもたらすモノ
寝ていたのは、電気のない離れである。
夏以外は雨戸も閉められると、文字通りの真っ暗になる。
それでも、見えたなら、それは、現実のものではないのだろう。
祖父母の家の離れでは古かったからか、長い時間を独りでいたからか夜の不思議が多かった。
夜の闇の中に、白いモノが二つ踊っている。
枕元というか、寝床の周りを白い足袋を履いた一対の男の足が滑稽に踊る感じで、爪先を反らしてガニマタで飛び歩くように布団の周りを回った。
よく見ると、白い足袋が膨らんでいるが、その上のふくらはぎが見えない。
履き口はきれいな空虚の丸が出来ていた。
結構、ひょいひょい飛び回っていた。
少し笑っていたのを覚えている。
その夜は、妙に不快でザワザワと胸が落ち着かなかった。
なんどか寝がえりをうった時。
暗いのに誰かが居るのが分かる。
手を伸ばせば届きそうな場所に、着物を着た男性が
(真っ暗なのに大島紬のような目の詰まった紺茶色に焦げ茶の細い帯が分かる)
こちらに背を向け、肩肘をついて横になっている。
我が気づいたことに気づいて
「寝ておけ」
と少し顔を向け言う。
先ほどのざわつきは、すっきりと消え、その夜はひどく安心して寝れた。
暗闇の中の子供を憐れむ存在があったのだろうか。
酷く暗闇が密な場所ではあったが、時折、負の感情以外のものを与えてくれるものが居た。




