47話 有楽町での忘却
霊感とは何だろう。
実物がないモノが見えるのが霊感か。
なら、一度忘れ、思い出したものが、自分の実際の目で見る範囲以上を見えた場合は、何とする。
想像である。そう言い切れないほど、その思い出した瞬間を恐怖した。
東京に住んでいた頃。
有楽町駅前、夜の9時から10時の間。人が多い。
映画を観終えた帰りで、JR口を通り過ぎ、地下鉄入り口へ歩いていると、沢山の地下から出てくる人の中で、不思議と50代後半くらいの男性に目がいく。
小柄だけどガッチリした体型。
ガニマタでせかせか歩き、くたびれたスーツ。
普通の冴えない男性だが、妙に気になって目を外せない。
例えば酔っ払いが、道端で大声で叫んでいたら、無視しつつも警戒する。
そんな感じだろうか。
そして、すれ違う瞬間
「あっ!」
と思ったが、何を思ったか直ぐに忘れてしまう。
忘れたまま普通に帰り、寝床に着いて今日あったことを思い出す。
仕事の事、終わってから観に行った映画の感想とか。
記憶は、進みあの男性まで辿りついた。
数時間前の出来事そのままに。
そして、男の左側をすれ違う瞬間、男の左肩の上に女性が腰から二つ折りで浮いた。(立位体前屈の格好)
すれ違った時長い髪と黄色かベージュ地に赤い小花が散らされたワンピースの裾が頬に触れ、驚いたのだ。
ソレを思い出した瞬間、飛び起きたが背中が怖くてまた布団に篭る。
そして不思議なのは男とすれ違う時、肩と肩が20センチも離れていなかった。
我は正面を見ていた。
なのに、髪が私に触れた時、二つ折りになっていた女性がこちらを向いたのを思い出したのだ。
顔の上半分は髪が乱れて見えなかったが、白い顎を覚えている。
我の頭のすぐ横で、頭を不自然に落としたまま、汚れた裸足に顔が付くほど降り曲がったままで、くるりと、こちら側を向いた。
一度忘れ、肉眼の視界では見えない範囲を「その瞬間」として思い出していた。
霊感のある友人に話したことがある。
その人は、自己防衛で忘れるのだと言っていた。
幽霊が憑くという現象は、いわば、相互確認のもとに成り立つ。
我が存在を「無い」と認識したために、憑くことが出来なかったのだと。
ならば、その男は認識したのか?
我の問いの答えは
「男は、憑かれることをした本人だろう」
そうか、ならば、怖がりな我に変なちょっかいを掛けないで貰いたい。
是非に。




