35話 見えない猫
野良猫の保護活動をしている人は大変なんだろう。
沢山の猫を預かって、普通に仕事もして、家庭もあって、凄く、凄く大変なんだろう。
しかしやっぱり、余裕のある場所で、預かってほしいと思う。
保護された猫が人を好きになってくれる場所であってほしい。
どうも、我が家には、二匹の黒猫以外に、もう一匹の見えない猫が居るらしい。
それが、女の子の「ウニ嬢」にくっ付いてきたようだ。
彼女の兄弟は全部死んでしまったそうなので、そのうちの一匹かも知れない。
足元にぬるりとして、オスの「くろまる」かと思いきや、くろまるは、ストーブの上に寝そべって動いた形跡はない。
ウニ嬢はパソコンの上から、こちらを見ている。
では、今、足元をぬるりとしたものは?
また、具合が悪く臥せっている主人の枕元には、守るように心配するようにウニ嬢がいるのだが、たまに、トスッ。と羽毛布団の上を歩く、ウニ嬢より軽いモノを感じるという。
主人は、少し前まで、もういなくなったんじゃないの?
と言っていたが、布団の上に何かに乗られたり、黒い影が横切ったりと夫婦で存在確認した。
前から、存在を感じていたのだ。
猫が二匹になってから数か月後くらいだろうか、猫のいる生活に慣れてくる。
そうすると、目の前に二匹の猫が居るはずなのに、足元にぬるりと猫のすり寄った気配。
前をするりと通り過ぎる影。
そう。影の様な色。
黒猫だろうか。
なんとなく、少し離れてウニ嬢を追っている気がする。
…姉弟だったのかしら?
ウニ嬢は里親からの譲渡で我が家に来たが、その前が良い環境でなかったと感じることが多数。
里親さんとの、連絡がうまく取れない。
から始まり、トイレは他の子の●も隠そうとしてくれる良い子ですよ~
(え?それって、自分がしたいときに、既に複数の●があるって事じゃない?)
我が家に届けに来たが、かなり臭う。
(普通、譲渡の前はお風呂に入れるよね。)
生後7か月で、2キロを大きく超えても避妊手術がしていない。
おかげで、生後5か月のくろまるが発情して煩かった。
我が家に着いて、慌てて手配して、数日後には手術をしてもらう。
本当は少し落ち着くまでは、待ちたかった。
爪が曲がって肉球に刺さりそうなほど伸びている。
(爪を切らなかったのね)
男性に怯える
(主人には一年なつかなかった)
棒に怯える
(クイックルワイパーを持つと、毛を逆立てて逃走)
トイレ後の事後処理、自分で舐めるが出来ない。
(トイレ教育。した後に、濡れたティッシュで拭くとかしなかったのか)
そんな事が山とあったので、余り、良い環境ではなかったと思われる。
今年は腸炎で死んだ子も多かったって言っていたし。
その中の子だろうか。
今は3.5キロになった美人なウニ嬢のあとを、少し小さな猫が追う。
布団の上を歩くときも、軽く。
寝ている時は、枕元のウニ嬢、わきの下のくろまる。
なら、足の横の布団の上の薄いくぼみは、誰かしら。
見えない小柄な猫が、撫でれない場所でくつろいでいる。
足元にまとわりつく。
時折、言ってみる。
「毛皮を着替えて、うちの子になれや」
見えない子猫はそのままに、二匹の猫を追いかける。
たまに気付くときもあれば、感じられないことの方が多い。
それでも気ままに猫らしく、狭くはあるが二匹の猫が遊ぶ中で、自分も遊んでいるのだろう。
動物の魂が残酷に殺されたわけでもないのに、こんなに長く残っているのは珍しいことだ。
普通は猫も犬も、死んだら素直に空に還って行く。
我が家の影の猫からの負の感情は流れてこない。
まるで、ただの現象のように、するりと猫の形の影が動いているのだ。
なので時折、夫に確認をする。
「ねえ。影の猫ってさ、使役された霊じゃないよね?憑神モノじゃないよね?」
それに、気のない返事。
「まあ、多分大丈夫だよ」
夫は「何か」がいても、自分たちに障りが無ければ基本放っておく人なので、たまに私から声を掛けなければ確認をしようともしない。
困った人だとも思いつつ、自分も影の猫という存在を「まあいいか」で済ませてしまっているのだ。
男の子のくろまるは、呑気で男の人大好きで、人の食事に一緒に加わろうと、一緒にご飯を食べる。
そして、焼き芋が好き。
お爺さんに拾われたと言っていたので、きっと焼き芋のお爺さんなのだろうかと考える。
きっと焼き芋屋さんのお爺さんが、ご飯の度に、胡坐に入れて、一緒に食べていたのだろう。
だからだろうか、とても人好きである。
人の気を引きたくて、ご飯を食べる。
ご飯を食べるたびに、その爺さんから、褒められたのだろう。
そのおかげで、未だに我が家でも、猫は、人と一緒にご飯を食べる図が出来上がっている。




