34話 お社 自殺未遂はだれのせい
子供の頃に、よく遊んだお社だった。
死ぬには、見晴らしの良い場所にしたかった。
お社を汚す黒不浄を詫びてから、首を吊った。
10歳の冬、自殺に失敗した。
祖父母の山の、近所お社でのことだ。
首を吊ろうと考えた。
昼のうちに用意をする。
丈夫なザイル。
踏み台として板に小さなブロック状の木っ端を、板に釘で幾つかをつけたものを足場に作った。
夜。
作った足場を使い、枝に登る。
初めは首に巻いて端を枝に結び枝から飛び降りようとした。
怖くて出来なかった。
一度降り、木の枝に結わえてある、端をもう片方も木に結びUの字に枝から下がるようにした。
単に、首を吊る結び方を知らなかったからである。
上に登ったりもしたので、枝の強度は十分ある。
顎を乗せ、ロープを確認し、足場を蹴った。
暗転
あ。
と目を開けたら、枯れた枝が紫の空を掴もうとしている骨の手のようだった。
夜が明けようとしていた。
枝が折れ、木の根元に頭を打って気を失っていたのだ。
後頭部が切れていたが、出血は治まっていた。
首の付根と耳の後ろの擦過傷。
寒さと打撲で体がギシギシ軋むのを、引きずるように帰ろうとした。
作務所の戸が開き、おじさんが出てきた。
手で招く。
拒む気力もなく、のろのろと従う。
土間に腰掛ると、味噌汁を出した。
冷えた体に美味しくて、涙やら鼻やら出ていた。
食べ終わると頭を下げ帰った。
頭は獣医に縫ってもらう。
獣医は何も言わなかった。
それで何も変わらない日常に戻った。
6年後、法事で祖父母の家に行った。
その家での所在がないので、お社に散歩に行った。
そのおじさんが話してくれた。
その人はお社の雑務をする人で神主さんではないのだが、なぜか境内に住んでいる。
今から考えると鳥居の内側に煮炊きする場所があるのも変だが、その地方の神様は、大らかなのかも知れない。
自殺未遂後も、何度も会っているのだが、それまで何も言わなかった。
なぜかその時に話してくれた。
おじさんが寝ていると、土間から声が聞こえた。
「寒いなぁ。こんな日は温かいのがいいな。温かい味噌汁がいいな」
無視していると声が何度も続いた
「寒いな。温かい味噌汁がいいな」
男の年寄りの声だったそうだ。
気味が悪いと思いながらも声に従う事にした。
味噌汁が出来上がってしばらくしたら、同じ声が今度は土間にいる自分のすぐ横から
「ああ、外にいる。そこにいる」
戸を開けると幽霊のような我がいた。
何度も乗って遊んだこともある木の枝だった。
それがなぜ折れたか。
何が、誰が、どんな存在が我を生かしたか。
しかし、その後の4年ほどは、自殺が出来なかったことを後悔するくらいの地獄だった。
我は、我を救った存在を、呪い、憎んだ。
それから、今は何十年もたった。
今は思える。
止めてくれて、ありがとうございました。




