29話 お社 神様のこども
そのお社は、夏祭り以外に人が滅多に来ない場所であった。
社務所に人が常駐していたが、その奥の本殿の裏では、よく子供の行方不明があった。
親戚の女性が話してくれた。
祖父母の実家の近くのお社は、古く広く闇の濃い奉り所で、昔から子供が消える噂があった。
男に酷く裏切られた女性が、呪いをかけるために丑の刻参りをした。
ある日数を続けなければならない。
呪いをした帰り、境内で子供に出合った。
人に見られてはいけない。
呪いの絶対の決まりがあった。
明日で成就するのに。
と女は子供を殺そうと考えた。
優しく声をかけ、手をつないだ。
鳥居を抜け階段の上から突き落とそうとした。
子供は女性を見上げ
「だめだよ。そんなことをしちゃあ、暗い場所に連れて行かれちゃうよ。みんなに会えないとこに連れていかれるんだよ」
と言った。
呪いの行為も殺そうとしている事も、全部を言われていると分かった。
女は追い詰められ、子供を殺そうとした。
肩から首に手が迫る中、子供は言った。
「僕もね。みんなに会えない所にいるけど。でも辛くはないんだ。神様の近くだからね」
子供は昔の子供が着るような、粗末な着物を着ていた。
女は階段の上にしゃがみこんで子供と朝日が昇ろうとしている空を、ずっと見ていたそうだ。
朝になった時には子供は消えていた。
その親戚の女性の体験である。
居なくなった子供の誰かは、神様の傍に居るのかも知れない。
年も取らず、時折来る、鬼になりかけた女を止めに。




