20話 ちっさなおじさん(少し高級)
世に「小さなおじさん」の話はよく聞くが、緑の全身タイツだったり、疲れたサラリーマンの姿だったりと、少し残念な感じなので、あえて(少し高級)と追加させてもらった。
親戚の家に居候の頃の小学校の運動会のとき。それは4年生の時だった。
お昼の時間が嫌いだった。
田舎の運動会なので村の人たちが総出で来ていた。
皆、お弁当を持ってきている。
我は職員と一緒に大きなテントで、食べる事になっていた。
それが嫌で逃げ出す。
周りの親切な大人が声をかける。
「こっちに来て、一緒に食べよう」
声をかけられるのも悔しくて、透明人間になりたかった。
小学校でお気に入りの場所があった。
裏門側の大きな木に登る。
木の種類は覚えていない。
結構上まで登れて、背もたれもある座りの良い枝があり、しかも、葉は茂っているが、木の中からは下を良く見通せるのに下からも外からも木の内側は、まったく見えない場所だった。
その日もそこに逃げ込んだ。
木に登るには、その木に居る事を分からないようにするために、真直ぐに行かずに体育館を回りこむ。
降りて戻る時も、木から真直ぐ校庭に行かないで回り道をする。
地上から4メートルくらいか、校舎の2階部分より少し高いくらいだが校庭を見渡せられた。
右側に職員の大きな白いテント。
奥から左に体操着を来た子供やその家族、適当な村人がシートを敷いてお弁当を広げている。
もう皆、我のことは忘れていてくれている。
そんな遠くのザワザワを気持ちよく聞いていた。
少し上で、何かが居た気がした。
猫か鳥か?
自分より2メートルほど上の前方の細い枝の上に何かが居た。影が動いた。
逆光で良く見えない。
目を凝らして見ると、小さな人である。
今から思うと、平安時代の貴族のような格好をした、30センチくらいの小人が、枝にまたがって、我と同じように足をぶらつかせて眼下の光景を見ていた。
お内裏様のようだと思った。
本当に大きさも衣装もそんな感じである。
顔は見えないから、人形なのか小人なのか分からない。
音を立てないように、でも顔を見たくて身を乗り出そうとした。
そのとき、小人はこちらを見ないまま直接頭に、
「この木は お前だけの ものではないぞ」
と聞こえた。
(ああ、小人もこの光景を楽しんでいるんだな~)
と思ったら、顔を確認するよりも一緒に同じものを見ているほうが良い気がして、そのまま下の世界を見続けた。
昼休みの終わるチャイムが鳴った。
もう、戻らないと。
顔を上げると、小人の姿は消えていた。
それでも、なんとなく小人が見ている気がして、午後の運動会も頑張った。
お腹が空いていたから、組み体操のピラミッドの下で踏ん張るのは大変だった。
そのとき、妙に目立ちたい気持ちに駆られて困った。
わざとミスをしたら小人は、我を見つけるかも知れない。
手を振ったら気付くかしら?
なんとなく、親の前で悪ふざけをして、怒られる周りの子の気持ちが分かった。
無駄なことしやがって、めんどくさいなぁ~って、それまで思っていたんだけれど。
それが何だったのか分からない。
でも、なんだか、とても好い時間だった。
この話を知人にした時に、漫画の「夏目友人帳」に似ていると言われた。
そこまでの、心の交流はなかったが、あの一瞬は、とても心地のいい時間だった。
もしあれが、村の他の人だったり、子供だったりしたら、言葉通りに自分の場所は無くなったのだ。と感じた事だろう。
しかし、あの時は、「私もここに居るよ」「一人じゃない」そんな意味を感じ、心強く、見守られる心地よさを感じたのだ。