17話 妖精にさらわれた子
思い出さえも美しすぎて切なくなる。
そんな子がいた。
小学2年生の時に転校生が来た。
その子の名前を未だ覚えている。
(我は人を覚え続けるのが苦手で今まででクラスメートを10人くらいしかフルネームでは覚えていない)
しっかりとした日本名なのに、色素の薄い北欧系の白人の男の子だった。
日本語もペラペラで授業にも、普通に参加していたが、白い睫毛やガラスのような瞳がクラスから浮いていたかもしれない。
なぜか彼は我と一緒に居ることが多かった。
教室だけでなく、学校帰りに山の中で、一緒に遊んだりしていた。
かといって活発に遊ぶのでなく、何かを話すのでもなく、ただ並んで腰かけているだけだったり、一緒に歩いていたり、そんな記憶ばかりである。
彼はとても静かな子だった。
我はそのころは喋れたが、極端に口数の少ない子供だった。
それが、彼に安心を与えていたのか、彼は我の隣に良く居た。
光の下にいると、その子はキラキラと、とても綺麗だった。
クリーム色の髪は昼間の光の下には白や銀色に見えた。
周りの空気まで反射してダイヤモンドダストってこんな感じかな。とか思った。
数ヶ月か半年かで、彼は学校に来なくなった。
体が弱かったから納得もしたが、見舞いに行ったらベットで目を開けたまま動かなかった。
こちらを見もしなかった。
母親らしい白人の女性が、片言で言うには、最近ぼんやりしていると思っていたら、じきに何にも反応を示さなくなった。
そんな内容だった。
母親は髪色や造りは彼に良く似ていたが、キラキラはなくハリガネや灰をイメージさせる人だった。
見舞いには数回行った。
彼は、ベットに腰掛けて窓を見続けていた。
声を掛けたか覚えていない。
相変わらず、とても綺麗だった。
学校に着ていたトレーナーやセーターとは違う。高そうなパジャマが異国の王子のようで、その姿を美しいと感じたが、同時にとても儚く切なくも感じた。
それから、しばらくして転校をしていった。
翌年にどこからか、彼が他界したとの情報が流れたが、本当か分からない。
そんな事を、友人に話したことがある。
彼女は言った。
「その子、すごく綺麗な子だったんだね。
なら、妖精に気に入れられて、あっちの世界に連れてかれたんだよ」
彼女は霊感だかが強く、子供の頃に妖精と遊んだ記憶があるという。
よく、妖精から小さなゼリーのような食べ物を貰っていたそうで、それに似たものは、果物になるのだが、果物を食べるたびに「もっと美味しかった」と気落ちするので、果物が好きではなくなったと言っていた。
「大人の姿の妖精は気位が高くて少し怖かった。
綺麗なものが好きだから、綺麗な人間の魂を捕まえてしまったのかもね」
彼女の言葉を聴いて、林の中を一緒に歩いたときの、木漏れ日の元、彼の周りのキラキラは彼を慕っている妖精だったのかもしれないと思った。
そういえば、「妖精の取替えっ子」という言葉を思い出した。
彼は本当の生まれは妖精だったのではないだろうか。
取り換えっ子として産まれ、世界に違和感を感じ続け、ついには、この世界に居ることを放棄したのかも知れない。
彼は今、彼の望む世界を生きているのだろうか。