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16話 通りすがりの人 3
夕方散歩中に出合った人。
見れたことが嬉しい。
スーツをパリッと着こなした男性。
横に柴犬。
犬は男性の顔を見上げている。
男性が犬の中に鞄を置いた時、初めて物質の無い犬であることに気付いた。
歩く時は横にぴったり寄り添い信号などで立ち止まったら、後ろ足で立ち上がってピョンピョンと男性に向かって跳ねる。
犬はきっと、
「嬉しい」
と言っている。
「大好き」
と言っている。
ああ、随分可愛がられたんだろうな。
男性は、そのまま私の横を通り過ぎた。
男性は、まっすぐ前を向いたまま
犬は彼を見上げながら、彼の歩調に合わせて歩いている。
生前もそうやって彼らは歩いていたんだろう。