13話 狂い
幼稚園を1年で出たので小学校に上がるまで自由時間が多かった。
親戚のやっている養豚場を手伝うのが日課で、普段は忘れられやすい昼ごはんが食べれたので、喜んでやっていた。
車の荷台に乗って30分ほど。
帰りも乗るのだが、親戚の気分次第で置いていかれもした。
徒歩なら1時間ほどだろうが、子供の足ではその何倍もかかる。
夕方の山道は(車が通るほど広いが砂利道)街灯もないので、酷く心細い。
帰り着けずにに野宿したこともあった。
その夜も歩いていた。
山の夜は早く夜の深い時間ではないのだろうが、我に中では夜で闇の中の記憶となっている。
どれくらい歩いたか、斜面の下から人の声のようなのが聞こえた。
悲鳴なのか、怒声なのか。
「あああああああああ」
とか
「おおおおおおおお」
とかそんな声。
ザザザザアアーーーと音もする。
近づいている。
走ってきている。
声は大きくなり、脇の草が割れ、人が飛び出してきた。
白っぽい着物を、着崩した四つんばいで道に立つ若い女。
ギラギラた目で、肩で荒く息をしながら我を見ている。
「はああああああっ」
女は長く息を吐き、出てきたのと反対側の崖の斜面に取り付き、トカゲのように這い上がり熊笹の藪に消えた。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁ・・・」
咆哮も小さくなり消える。
そこで、やっと息をつけ、帰る。
その頃、ずっと答えの出ない疑問があった。
母方(祖父母の家)は狂いが多い。父方は早死にが多い。
口の悪い親族に言われていた
「なら、お前は50までに狂って死ぬんだ」
分からなかった事。
「狂う」って?
聞いても答えてもらえなかったか、納得ができなかったかで、常に疑問に思っていた。
その答えが、その女に出会い分かった。
「狂い」
とは
「時間が止まること」
辛い時間から出れないで閉じ込められる事。
実際とは違うのかもしれないが、その頃の(多分今のも)我にとっては納得のいく答えだった。
そのことを大人になってから霊感のある友人に話した。
「その女性、生きている人じゃないって、分かっている?」
「ええっ?」
普通に心を病んだ人かと思っていた。
多分、遠くてもどこかで血の繋がっているのだろう。
母方の実家は狂いが多い。
自死も殺人も行方不明も多い。
かくいう我も、絶賛精神病で闘病中である。
さて、これは血なのか。
考えても意味はないので考えないようにしている。