99話 住めば都の事故物件
大きなマンションなので、階が離れていれば、建物内での左右上下、その場所に関係なければ、事故物件とは言わないのだろうな。
何もない。
のだが、小さな違和感。
ここ6年の間に3回引っ越した。
3回目の今の場所に越してきたとき、ふと思い立って、調べてみる。
「大島てるの事故物件」のブログ。
地図にピンが立っていて、拡大すると、マンション名、何年にどんな事があったか。
大体の年齢と性別。
が出る。
拡大して、上行って上行って・・・
あ、この街だ。
ここの通りで、こういって・・・
あっちゃったよ。
ピンが今住んでいるマンションに立っている。
まあ、古いマンションだしな~と思っていたら、意外に最近の年の数字。
「200X年。20代女性。飛び降り」
とあった。
引っ越してきて2年目。
いまだ何もなし。
怖くない話でごめんなさい。
でもね、ちょっとした時に思い出す。
地味に怖い。
上の階が工事をしていて、工事の方と一緒にエレベーターに乗る機会が何度かあった。
そうすると、押していないのに、誰もいないのに、1階に着くまでに1回どこかの階で止まりドアが開く。
●工事の人と一緒
●日中
●エレベーター内4,5人。(一人は我)
●下に行くまでに1回止まる(同じ階か不明)
これが一か月の工事の中で数回遭遇。
ある日、やはり止まって誰も居ないエレベーターの扉が閉まった時に、工事のお兄さんが上の人らしきオジサンに聞いていた。
「あの~、この階って、アレ...」
「違うよ。黙っとけ」
お兄さんを遮るようにして、話題を切る年配の方。
何を止めたのか?
我がいなかったら、どんな話が続いていたのだろうか。
1人でエレベーターに乗っている時には、有難いことに何も起こらない。
しかし、工事の人と相乗りすると何回かに1回かは判らないが、例えば、上の階が2週間の工事が入るとする。
工事は、多分ずっと同じ会社だ。
そうすると、時折あるのだ。
誰も押していない、扉を開けても誰も居ない。それでも止まるエレベーター。
その度に、無言になる工事の方々。
我には、誰も居ない扉の外を凝視しても、廊下の灯りが煌々と瞬いている空間にしか見えない。
何かあったか。
といえば、何にもない。
怖い話でなくてごめんなさい。
ただ、その前に住んでいた場所は、場所もそうだけど、建物の住人もおかしかった。
運気というのがあるならば、悪い場所に属していたと思う。
マンション周りに粗大ごみが放置されていて、何人いるのか判らない隣の住人の怒鳴り声が時折聞こえた。
1階の住人はタバコの吸い殻やごみを窓から外に出していた。
敷地内に犬の糞が落ちていた。
ある日、粗大ごみを出すのにシールを貼ったのに、回収業者から「ない」との連絡が入る。
誰かが持ち去ったのだろう。
そういえば、と思い出す。
荷物の移動で段ボールを少しの間、建物の入り口に置いておいた。
そうしたら、いつの間にか一つ無くなっていた。
しばらくして、そこの住人に声を掛けられた。
「裏の階段に段ボールがあるけれど、そちらさんのじゃないの?」
見に行くと、無くなった段ボールだった。
階段を数段登った先に置かれていた。
皿の詰まった段ボールである。重くて自宅まで運ぶことが出来なかったのだろう。
そんな、胡乱な場所だった。
しかし、大島てる氏の地図には何もなかった。
それを考えると、いい情報にはなっても、良い場所を選べるものでもないらしい。
良い場所とは何ぞ。
家族との良い時間を紡げる場所。
住むのに適した環境。
悪い場所とは。
例えば、湿気が常にありカビが直ぐに生える場所。
例えば、住人も住居も管理されていない場所。
そして、人の運を下げる場所。
そんな場所から離れられたのなら、たとえ事故物件のピンが立っていたとしても、「楽しい我が家」なのである。