1話~3話 猫の言葉
ある女の実話の不思議話。
産まれたときに、両親に捨てられ祖父母の家の離れで10歳まで過ごす。
祖父母の他界した後、親戚の家をいくつか回り、その後、実母に嫌々引き取られる。
裕福な家であったが、人は我に関心がなく、今でいうネグレクトなどの虐待を受けてきた。
一人の時間が多い女に、「不思議」は容易に近づいた。
何とか育ち微妙な大人になったが、それからも「不思議」は時折そばに来た。
産まれた時に両親に捨てられ、母方の祖父母の家で育った。
旧家でそれなりに人は居たが、子供は疎ましく思われていたのか一人の時間が多かった。
母屋から竹林を挟んだ離れに一人で寝起きをしていた。
周りに人が居なかった分、犬父や猫母が我を守ってくれていた。
心のよりどころは物心ついた時には既にいた大きな黒い雌猫だった。我が子のように大事にしてくれた。
狩りの練習とかもさせられた。
我も母親のように思っていた。弥七(水戸黄門の風車の弥七から。雌だけれど)と名付けて呼んでたが、思い出すときや他人に説明するときには猫母と言っている。
それでは、その猫母の最期を話そう。
「猫は一言だけ話せるのかも知れない」
何年か前にSNSの他の人の日記で隣の部屋から「ママ」と呼ばれた。
誰も居ないはずなのに?
と行って見ると飼っている猫が、ちょこんと見上げていたらしい。
それを読んだ時、我も猫の言葉を聞いたことがあるなぁ。と思い出した。
1話 小さい頃
深夜に目が覚めると布団の胸の上に、猫母が座っていた。
前足を揃えた綺麗な猫座りである。
離れの灯のない暗闇の中での黒猫であるが、ちゃんと見えていた。
胸の上の大猫だが、重いとか苦しいとかの記憶は無い。
大きな黄色い目が揺らいでいるのを不思議に思った。
しばらく見詰め合ってから猫母は、目を閉じ、頭を深くを下げた。
「そくさいで」
凛とした女性の声がした。
翌日、猫母は消えていた。
それから何年かして「息災で」の意味が判り、胸が熱くなった。
あの頭を下げた時の姿が、袖で顔を覆い涙を隠す着物の女性を連想させた 。
2話 中学生の頃
子猫を拾った。
名は「カジャ」とつけた。
黒い縞のキジ猫である。
カラスに突付かれたようで両目がつぶれていた。
カジャとは狂言の太郎冠者、次郎冠者から名付けた。
目が見えなくても、お前は物語の主人公なんだよって意味で。
眼球は摘出されたが、その他は健康で、ちゃんとご飯やトイレの場所を覚えては粗相をすることもなかった。
声や振動に反応して、見えなくても部屋の中を走ったり、壁に添っての移動など、不自由はなさそうだった。
膝の上に乗った時には、指先を吸ったり親指の付け根を甘噛みする癖があった。
その時には肉球がグーパーとして幸せな顔をしていた。
眼球を損傷した際に脳までも傷がついたのだろうか、それとも癲癇の発作なのだろうか、たまに痙攣を起こして見ていて辛かった。
1歳になるころ深夜に目が覚めた
ふと見ると布団の足側のタンスの上に何かが居た。
カジャだった。
なんでソンナ所に居るんだろう?
と寝起きの回らない頭で考えた。
「いくね!」
可愛らしい子供のような声がした。
翌朝、カジャは本棚の下の段の寝床で冷たくなっていた。
薄く積もった埃はそのままで、タンスの上に居た形跡はない。
カジャは高いところに登った事はなかった。
タンスは180センチくらい。寝ている私と目を合わせられる場所である 。
確かとはいえないが、タンスの上に居た時に瞳が光って見詰め合った記憶がある。
3話 高校生の頃
拾った黒猫「といち」(11日に拾ったから)がいた。
バイトと学校の両立で大変だった頃、体調を崩し何日も高熱が続いた。
家人は別の場所にいて、一人暮らし状態だった。
フラフラの状態になりながらも餌はあげれていたが、器を洗えなかったので人用の器を何枚も出して餌を入れていた。
トイレの砂替えがなかなか出来ないので、とりあえずトイレの砂の量を多くしたりとかはしていた。
といちが高熱に魘されている私の枕元に来て顔を覗き込んでいる。
(ゴメンネ~。ちゃんとしてあげれなくて。
動けるようになったら、たくさん遊んであげるし、美味しいご飯もあげるから。
トイレが汚くてゴメンね。すごく嫌だよね。
もう少し我慢してね。
良い子。良い子。可愛い子。
さあ、風邪が移るから離れていなさい)
そんなことを話し掛けていただろうか
それともただ言ったつもりだっただろうか。
といちは汗臭い我のこめかみに額を当てて
「かあちゃん・・・」
少年の声だった。
翌々日熱は下がり、念のために学校とバイトはその日は休んだ。
一日遊んで、トイレの掃除と雑肉を買ってきて手作りキャットフードをあげた。
あまり喉を鳴らす子ではなかったが、くっついて喉を鳴らしていた。
翌年、車に轢かれて彼は死んだ。
ほとんど寝起きや熱で魘されていてなど普通でない状態だったが、
彼らの想いを込めた言葉だったと信じている。
そして社会人になってから。
仕事は事務職だったが、ほぼクレーム処理だった。加えて年上の部下と若い部下たちの溝が出来ていて、その間で意思の疎通が出来ずに人間関係も酷く悪かった。
仕事が終わって自宅のマンションに着いた。
仕事で気持ちが凹んでいた。
「はぁ~。最悪だ・・・」
思わず溜息と悪態が漏れた。
「そうでもないはず」
頭の上から野太い男性の声がした。
「? 」
顔を上げると、塀の上に茶の縞の大きな野良猫が寝そべって薄く目を開けコチラを見ていた。
「お前か?」
聞くも答えず
当たり前か
気のせいだよな
気のせいである。たんなる空耳である。
しかし思わずアリスのチェシャ猫を思い出した。
そんな空耳な猫の言葉
一人称は「我」《われ》です。
普通でない一人称は、幼児性や自己顕示欲の強さなどであることは理解している。
安心してほしい。我と使うのは、この物語の中でだけだ。
実生活ではちゃんと使い分けている。