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茅葺き屋根の家 4

祖父の家の間取りは変わっていて、不思議な場所に扉や部屋があった。

「変わっている」というのは、あくまで、一般の建売住宅を基準にした場合の話である。ひと昔前の豪農の家は、概ね祖父宅のような造りだったのかもしれない。


囲炉裏のある土間は、四方が厚い一枚板の引き戸で間仕切られ、それぞれ玄関や別の部屋につながっていた。ある間仕切りの奥には、さらに隠し扉のような引き戸があって、そこを開けると突如階段が現れた。

わたしはとくにその場所がお気に入りだった。

女忍者になったつもりで隠し扉を開け、足音を立てずにそうっと2階に登る。わたしの不在に気づいた大人たちが「あいつはどこへ行った」と探し回る声を聞きながら、うっとりと妄想にふけることがよくあった。

また、普段子どもは立入禁止の仏間の奥には、王族の宿泊用かと思うような立派な座敷がぽつんとあった。そこはいつも綺麗に整えられていたけれど、どこかよそよそしく冷たい感じがして、1人でその部屋に取り残されるのは、とても怖かった。



祖父の家では、たくさんの動物も飼っていた。

それは、犬や猫といった愛玩用のペットではなく、牛や馬、鶏、そして番犬という、生活の道具としての動物だった。


重い外玄関の引戸を開けるとコンクリ床の小道が続き、その道の両側には牛小屋があった。

昼でも薄暗い土間はどこか不気味で、予告なしに「モ〜」と聞こえる牛の鳴き声に、わたしは思わず息を止めて、足を急がせた。


玄関の横にあった小部屋には、壁三面にぎっしりニワトリが飼われていた。

母が今でも鶏肉が食べられないのは

朝から晩まで聞こえる、 コケッコケッというニワトリの鳴き声と羽音のせいではないかと思う。


2階にはサンルームのような部屋があり、その部屋には3階に登る細い階段があった。

サンルームのような部屋は、ゼンマイや餅などを乾燥させるために使われていたが、その昔は蚕を飼育するための部屋だったという。2階と3階で大規模に蚕を飼育し、農作業閑散期の貴重な収入源にしていたそうだ。

祖父は藁細工も得意で、冬には蓑や藁靴、カンジキなども編んでいたらしい。


わたしはどうして、もっと祖父の話を聞かなかったのだろう。

永遠に聞けなくなった今になって、もっともっと祖父の話を聞かなかった自分を、とても残念に思う。

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