二人で
「ぎゃお〜」
バサバサという翼の音をさせ、大きな竜が近寄ってくる。
ただ、群れる習性があるはずなのに、なぜか一体で。
はぁ。そんなことはどうでもいいか。
私は、竜ほど壊したいものはないの。
ありがとう……
自分から、来てくれて。
空に向かって剣を振る。
私の魔力を乗せた剣は、風を凶器に変える。
はは、ふふふ。
巨体はスピードが遅いからあっけなく仕留められると思ったが……
何こいつ、避けやがって。憎らしい。
「ぎゃお!ぎゃお!!」
しきりに上空で鳴く竜。
私を攻撃するわけでもなく。
「うるさい」
そう剣をもう一度振る。
今度は避けれなかった。いや……違う。
竜は避けなかった。
私の前に、大きな音と共に落ちてくる。
きちんと、息の根を止めるため、私はその竜に近寄った。
竜は、丸くなって、裏声を使っているのか、
「きゅ〜きゅ〜」
と高い声を出す。
思い出される、愛しい子。
不甲斐なくも、剣の動きを止めた。
「あなた、私の愛しい子のふりして、何がしたいの?」
「きゅぎ……きゅ!」
裏声で……しかし、少し無理しているのがわかる。
そして、その竜は信じられない事を目の前でやりだした。
自ら……瘴気を思いっきり吸い込んでいるのだ。
この場にいるだけで辛いだろうに、何度もむせながら、あたり一面の瘴気を吸い込み続ける。
……
何しているの、これは。
竜はむせているが、弱っていくようには見えない。
これだけ濃厚な、瘴気を前に、弱らない竜なんて……いるわけがない。
あなた達が、いらないとしたものを……
一人で受け止められるはずが、ない。
竜は、私自身が発する瘴気すら吸取り始めた。
そして、体内に私の瘴気を充満させ、少しずつ、真っ黒に包まれながら……
人型になっていく。
「あ、あなた、まさか。」
幼い頃の面影を残した、愛しい子が。
そこに……立っていた。
「母さん。ただいま。」
ふっ、と愛しい子は笑って。
驚きで、目が見開いたままの私の前に、跪いた。
「母さん。いいえ……魔女、マリー・フローズ。あなたに、私を捧げます。」
名前を呼ばれたのは、いつ以来だろう。
「そ、それは、また契約して我が子になってくれるということ?」
愛しい子は少し困った顔をした。
「できれば、子、としてではなく、伴侶として……は僕のこと、見られませんか?」
−−−こうして、竜は自ら魔女と共にいることを選んだ邪竜とも、世界を救った英雄とも呼ばれ、魔女は天災の一つとして人々の中で認識されるようになった。人々の認識に、間違いはない。
ただ、人々は知らない。
二人が今でもずっと世界の不条理を身に受けて、それでも笑って「二人で」乗り越え、消化している事を。
本編は完結です。
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