書籍版第3巻発売記念SS『クラウスのパン作り』
書籍版第3巻、絶賛発売中です!
イルク村の広場で、作業を見学しながら――――ディアス
私達王国の人間にとってのパンというと、大きく分けて二つの種類がある。
小麦粉で作った美味しさと柔らかさを追求した白パンと、黒麦粉で作った保存性のみを追求した黒パンだ。
私は歯応えのある黒パンも好きなのだが……多くの人は白パンの方を好んで食べている。
その為、白パンの材料の小麦粉は黒麦粉に比べて人気があり、かなりの高価となっていて、必然的に白パンそれ自体も高価となっている。
アルナー達鬼人族にとってのパンというと一種類のみ、小麦粉を使った白パンのことになる。
草原では王国よりも小麦粉の入手が困難であり……パンの価値は王国の白パンよりも更に高いものとなっているようだ。
その為、鬼人族達はパンをとても大事な、特別なものだと考えていて……作る際に様々な工夫を凝らすのだそうだ。
円形の生地に細長く成形した生地を乗せて、まるでコインに模様を描くかのように様々な意匠を描く。
鳥、メーア、花、財宝、月と星などなど。
そういった模様を描いたパン生地に様々な薬草を乗せるなり混ぜるなりして、風味と味を付けたらバターを塗って焼き上げる。
王国の白パンとは違ってパン種は少ししか使わず、あまり膨らまないうちに焼いてしまうので、食感はふわふわというよりもちもちしたものとなる。
時に金貨以上の価値となるそのパンは、鬼人族にとってとても大切なもので……そのパンを食べられるということは、ただそれだけでとても幸せなことなんだそうだ。
そんな話をアルナーから聞かされたクラウスは今、広場に作ったパン窯で、王国の作り方と鬼人族の作り方を混ぜた形でのパン作りに挑戦している。
パン種をたっぷりと使い、生地をしっかりと膨らませたふわっふわの王国風白パンに生地で模様を描くという作り方だ。
しかし王国風のパンの作り方だと焼いた際にパンが膨らみすぎてしまい……形も模様も崩れてしまって中々上手くいかない。
何度やっても上手くいかないが……それでもクラウスは、ふわふわで綺麗な模様の描かれた最高のパンを作り上げようと奮闘し続ける。
戦場で、戦いの合間にパンを焼き続けていたクラウス。
焼き立ての香りと、食べた時のあの柔らかさと、そして食べた者達の笑顔。
そうした王国風白パンによって得られる幸福に、鬼人族風白パンによって得られる幸福が加わればより多くの者を喜ばせることが出来ると、そんな想いがクラウスの中にはあるらしい。
しかしそんなクラウスの想いに反してパン作りは上手くいかない。
柔らかくふわふわのパンが焼き上がりはするが、模様は完全に崩れてしまって形はかなり酷いことになっている。
焼く前のパン生地にナイフで模様を刻んでみても綺麗とは言えず……焼く前に成形する方法も狙い通りにはいってくれない。
そうしてあれこれと試行錯誤を繰り返したクラウスは、いくつかの丸いパン生地をくっつけることで模様作りでは無く、大雑把な形作りをしようとし始める。
「いきなり模様を描こうとするから難しいんだ、まずは大雑把な形を作ることに挑戦して、それに成功したら少しずつ細かくしていけば良いはずだ……」
と、そんなことを呟きながらクラウスは生地を練り、丸めてくっつけて……そうやって何故だかアースドラゴンを作ろうとし始める。
あの凶悪な爪を構えた足に、甲羅に。
クラウスは素材の状態でしかアースドラゴンを見たことがないはずだが、それでもかなりの再現度だ。
そうして出来上がったアースドラゴン型の生地を慎重に、私も手伝ってやりながらパン窯へと運んで……パン窯に火を入れる。
パン窯を睨んで、パンが膨らんでいく様を監視するクラウスは……パン窯から良い香り漂ってきて、良い焼き具合となったタイミングを狙ってアースドラゴンパンを取り出す。
ふっくらと丸く膨らみ、焼き上がったそれは……アースドラゴンというか、完全にただの亀となってしまっていて……それを見たクラウスはがっくりと肩を落とす。
と、そんな時だった。
「あー、亀さんのパンだ!」
「かめさんだー」
美味しそうなパンの匂いを嗅ぎつけたのか、セナイとアイハンがそんな声を上げながらクラウスの方へと駆け寄ってくる。
そうして肩を落とすクラウスから亀さんのパンを受け取ったセナイとアイハンは、満面の笑みになりながら、美味しそうに亀さんパンを頬張り始める。
そんな二人のなんとも幸せそうな姿を見たクラウスは、意図した形では無かったと肩を落としながらも、なんとも幸せそうな良い笑顔になるのだった。
お読み頂きありがとうございました!
本日第3巻が発売となり、各書店に並び始めているようなので
興味のある方は手にとっていただけると嬉しいです!






