書籍13巻発売記念SS
ある晴れた日のこと。
イルク村近くの草原に絨毯を敷いて寝転がるアルハルの姿がある。
背負カバンを枕にして他の荷物を足置きにして、だらしなく寝転がり、腹の上に本を乗せてゆっくりページをめくって読み進んでいる。
重い本を持つのが鬱陶しいからと、そうしているアルハルの膝の上……組まれた足の頂点にはエイマの姿があった。
エイマも同じく本を読んでいたが、こちらは姿勢正しく、しっかりと本を両手でもって、ゆるんだ表情のアルハルとは違って真剣な表情だ。
アルハルが読んでいる本は王国の文化や伝統についてが書かれた本、エイマが読んでいる本は自作した帝国の情報についてをまとめた本で、それぞれ本に対する価値観も向き合い方も全く違っているのだが、それでもこうして二人で一緒に出かけて本を読むことはよくあることだった。
気が合うと言ったら良いのか、無言が苦痛にならない関係と言ったら良いのか……とにかく二人にとってこれは大事な時間の一つだった。
そうやって本を読み進めて……大体同じくらいの時間で読み終わって、喉が乾いたからとアルハルが水が入った革袋を取り出し、焚き火の準備をしての茶の準備をし始め……エイマはそれが終わるのを静かに待つ。
手伝っても良いのかもしれないが、自分の体の大きさでは大したことも出来ないと、ただただ静かに、邪魔にならないことを意識し……アルハルもそんなエイマの考えを良く分かっているので何も言わずに茶の準備をし、自分の分とエイマの分を淹れて、一口飲んでから口を開く。
「そう言えばエイマはあのドレス着ないのか? ほら、出会った時に着ていた派手なやつ。
鎧とドレス混ぜ合わせたような……可愛くて悪くなかったよな、あれ」
「あ、ああ、あれはまぁ……見た通り鎧なので、戦闘とか指揮をする時専用ですね。
普段はこんな風にマントだけで気楽に過ごしている方が合っているんですよ。
あとはパーティとかあれば着るかもしれないですけど、普段は着ないですね」
「パーティ? いや、パーティの時はもっとちゃんとしたドレスの方が良いだろ?
エイマはちっちゃくて服仕立てるのも楽なんだから、そういうのはしっかり用意しておかないと」
「ま~……布を使わないで済むのはそうなんですけど、小さい服を作るとなるとそれはそれで手間がかかりますからねぇ……そう楽な話でもないんですよ。
どうしても必要になったらエリーさんに頼めば作ってくれるとは思うんですけど……」
と、エイマがエリーの名前を出した瞬間、二人の頭上に大きな影がにゅっと現れる。
それは大柄なエリーが二人を覗き込んだことにより出来上がったもので……ニッカリと笑ったエリーは、手にしていた紙を二人に見せてくる。
それはエイマとアルハルのドレスのデザインを絵にしたもので……エイマ達が何かを言う前に、エリーの方で準備を進めてくれていたようだ。
イルク村に来る前は、自分の商会で様々な服を作り、流行の最先端を作り出していたというエリーがデザインしたドレスは、確かに素晴らしい出来で、二人にとても似合うもの……だったのだが、エイマもアルハルもあまり可愛らしすぎる服は好みではなく、二人は同時に首を左右に振ろうとする。
……が、エリーはそんな二人に構うことなく、二人の肩や体をガシッと掴み捕獲して歩き始めてしまい……、
「さ、正確なサイズを計るから、こっちにいらっしゃいな。
アナタ達はこれから、お父様やセナイちゃん達と一緒に色々な場に行くことになるんだから、ドレスの一つや二つ、持ってなければお話にならいのよ」
と、そう言って自分のユルトへと、半ば強引に連れ込んでしまう。
そうしてエイマとアルハルはしばらくの間、エリーによるドレス作りやら化粧講座やらに巻き込まれることになるのだった。