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第14話 未成年は酒に近づいてはいけない(戒め)

「ごちそうさまでした…」

 想定をはるかに超えた味だった。まさか自分自身の料理スキルがここまで劣っているとは想像もつかなかったのだ。別に張り合っているわけでは無いにしても。

 そりゃ女の子だし料理ができても違和感は無いと思っていた。

 正直俺なんて軽く超えられてもおかしくないと思っていたのは事実で、ある程度の心の準備はできていたはずだ。なのになんだこの敗北感は。

 勝てそうな気がしない。姉さんにまた教えてもらおうとひそかに決意して食器をキッチンのシンクに持っていく。

「皿洗いは俺がやっとくよ…流石に俺だけ何もってわけにもいかないしさ」

「お手伝いしますよアヤくん!お任せください!」

「手伝ってくれるのは嬉しいけど、エレナは荷物とか片付けてきたらどうだ?昔のもので使えなくなったものとかあったら整理しておくといいと思うぞ。

 これ終わったら俺も部屋に戻ると思うからそれまでに見られたくないようなものを片付けておいてくれると助かる」

「…そうですね、そうしましょうか。私だってみられると恥ずかしいものの百や二百持ってますし…」

 …多くね?

 しかしそのあたりは個人個人の判断の管轄だろう。俺から言うことではない、よな?

 流石に俺の部屋が見られたくないもので埋め尽くされるような事態になれば話は別として、片付けや掃除といった基本的な家事は一通りできるエレナだ。うまくやってくれるだろう。

「では失礼しますね!準備終わったらお手伝いに来ますので、心待ちにしててください!」

「おう、って言ってもそんなに長くはかからないけど…聞いちゃいねえし」

 既にエレナはドアを開けて玄関に置いた荷物を手に俺の部屋へと向かって階段を駆け上がっていた。そんなに急がなくても俺の部屋は逃げませんからどうか落ち着いてほしい。

 忙しいやつだな、と先ほどと同じ印象を胸に抱き、今度はソファで横になっている姉さんを見る。

「アヤぁ、なんかつまみつくってぇ」

「俺皿洗いするって今言わなかったか。つーか最近お酒好きだよね姉さん」

「男の人と関わる機会なくってさぁ!お酒でも飲まなきゃやってらんねー」

 急にダメ人間みたいなことを言いだした。お酒はあまり体に良い影響を及ぼさないと聞いたが…少しなら人間関係の育成にあると良い働きをしたりすることもあるってのは親父の話を聞いてて理解してる。

 節度を守れば十分に有用なツールだということは知っているのであまり否定的な意見を出すわけでは無いが…。

「お酒は依存性があるんだってことが分からない姉さんではないと思うけどさ…ヤケ酒ってのはよくないって聞くよ?美容にも精神的にも」

 皿を洗う手を止めることなく姉さんに小言を言う。一応俺が監視しているおかげか、一日一缶のペースは守っているみたいだしあまりきつくは言わないでおくが。

 ルールを守るならそれくらいは許容してやっても良いだろう。

「皿洗いもうすぐで終わるからその後になんか作るよ。何かリクエストは」

「生ハムでおねがいぃ…生ハム切れると死んじゃう…」

 生ハム乱用者の姿がこれである。生ハムとはご存知の通りハムの一種で、結構塩味が効いている。お酒のつまみとしてはわりとメジャーなとこなんじゃないかな。

 塩分が多いので大量に食べるのはお勧めできないけど、俺もよくサラダなんかに彩を加えるために使ったりするし、別にすっごく体に悪いとかそういうのではない。

「適当になんかつくる。皿洗い終わったしテレビでも見て待機してくれればいいよ」

「おっ…がんばってぇ。対価は何がお望みかい…?」

「そうだな…家事をまた教えてもらおうかな。流石にエレナに負けたままじゃいられないし、なんだか悔しい」

「いいねぇ主夫って…なんかこう、ぐっとくる。それだけで一本いけちゃいそう…」

 実の弟に何を感じているのか想像するだけでも恐ろしいが、まぁそれはそれ。

 一応大切な姉である。もとより願いを聞くに吝かではない。すでに完了した皿洗いから、調理に仕事の内容を変える。

 といっても何を作ったものか…。そういって冷蔵庫の中を一瞥する。ドレッシング類やスポーツドリンク類が並べられているドア裏のスペースを確認する。

 ドレッシングは結構肴にも向いている味付けがあったりする。和風ポン酢的なやつは特にいい。肉でも魚でも野菜でも大体当てはまる…が。

 今回のリクエストは生ハムである。無論生ハムにも合うっちゃ合うのだが、少し食塩の量が多めになってしまう。

 俺のようにどうでもいいや、って人は別に構わないのだろうけれども一応女性である。あんまりたくさん塩分を摂取すると意外ときつくなったりする。らしい。

 姉さん自体も自分でそう言うことはしないので好きな味付けっていうわけでもないので今回はパスするのが無難だろう。

「あれ。この卵消費期限今日までじゃないか。卵あったはずなのに買ってきてたのはそういう理由かぁ。

 んー…あんまり卵一日何個も食べるのはアレなんだけど…まぁ一日くらいは大丈夫かな?」

「アヤくん?一人で何仰ってるんですか?」

「卵持ってるんだから驚かさないでくれエレナ」

 背中を向けたまま耳元で囁くエレナに対して文句を垂れる。耳元でやったのは風呂での行いに対しての意趣返しか。別にわざとではないんですけどね。申し訳なかったです。そんなに怒らないで。

 卵が割れると結構掃除が面倒になる。殻の破片って踏んだら結構痛いっていう事実をみんなもう少し理解したほうがいい。

 普通に料理してたらそんな事態には陥らないということは抜きにしても、卵を落としたときの後始末は非常にめんどくさいので、卵を持っている人を驚かせることはおすすめしません。

「お手伝いしましょうか?というかそもそも何を作ってるんです?」

「おねぇちゃんの肴ぁ。お酒いっしょに飲もーぜgirl!」

「未成年飲酒はおやめくださいませお客様」

 あとは冷蔵庫の中に中途半端な部位だけあったマグロとかを加えてネギとごまと卵とごま油を上からわしゃーってやる。

 酒の肴は人によって好みがあるのだが、割と姉さんは粗野なやつが好きな傾向がある。

 一度ちょっとこだわってみたけど『普通でいいよぉ、むしろ雑で』って言われたことがあったので二度とこだわらぬと決めたのだ。二度とこだわってやるものか。







「ほい。できた。マグロとか生ハムとかなんかいろいろ」

「素晴らしく雑だねいいセンスしてるぅ…うーんいいよねこのよく分からない感じ」

「感想に語彙力が足りなさすぎるのでいまいちよう分からん」

 とりあえず簡単に作ったものを持っていくと褒めているんだか貶しているんだかよく分からないような感想をいただいた。姉さんは多分漁師飯とか『男の○○』とかそういうのが好きなタイプだと思う。姉さんとうちの担任…名前を黒崎と言うのだが、あの人の肴の趣味は非常にあってると思うので一度飲みにでも行ったほうがいい。

 ともあれお気に召したようで何よりである。

 さて俺も落ち着くかと一息ついたところで右側から唐突に質量感を感じた。

「あ~や~ぁくぅ~ん!」

「姉さん酒は飲ますなと」

「匂いでこうなったらしいのでぇ…おねぇちゃんは悪くないのぉ…」

「うっそだろオイ。そんな話ある?別にビールってそこまで強い酒じゃないからよほどのことが無いと…」

「なぁにいってるんですかぁアヤくぅん?夜は長いんですからそんなに落ち込まないでくださぁい(?)」

 自分でも何言ってるかわかんないみたいな顔しながら言うあたりが笑い的にじわじわくるが、そんなことを言っていられる状況でもないことは確かである。

 昔は姉さんが酒を飲んだりすることもなかったし、俺の親もエレナの親も子供の前では酒も煙草もしなかったので関わる機会が無くて気が付かなかったが…エレナはすっげえ酒に弱かったのな。

 こんなところで知ることになるとは正直思いもしなかったけれども。

「水飲んで落ち着こう。な?」

「やぁですねぇ!アヤくんが目の前にいるんですよ!おちつけと言うほうが無理なのでは!」

 だめだ。完璧に絡むモードだ。酒に酔うと自らを見失うタイプってよくいるって聞くけどこんな感じなのかね?

 しかしこの状況はあまりよろしくない。ひどく落ち着かないのだ。

 何しろさっきからくっついてくるせいで豊満な胸が惜しげもなく押し付けられてくるし、風呂上りということもあっていい匂いのする髪の毛が俺の心拍数を加速させる。

「だめだわもう。一生こいつには酒は飲ません。管理してやる」

「実の姉の前で愛の告白とはやるねぇアヤぁ!」

「一生管理されるなんて…いやでもそれはそれでいいかもしれないですね…えへへ」

「待ってくれ今の発言のどこにそんな要素があった…?

 つーか学校の課題はエレナどうするんだよこんなに酔っちまって」

「アヤくぅんにお任せですね…っ!」

 ですねっ…!じゃねえよ。課題は自分で取り組んでこそ価値があるんだよ分かってないな。提出しとけばいいってもんじゃないんだぞ。

 確かに今日のプリントはそこまで難易度も高くないし誰がやっても凡ミスさえしなければ同じ点数にはなるから…やっても大して負担は変わらない。

 やたら熱っぽい吐息が耳を擽るのがひどく落ち着かないが、今は絶えるしかない。下手に自分の部屋にでも逃げ込もうものならベッドに押し倒されて何をされるか分かったものじゃないのだから。

 明川あたりなら『変わってくれ!』なんて言い出すんだろうけどこちらからしてみれば頼む、の一言だ。

 手を出すわけにはいかないのだ。年齢とかそういうの的に。ただ単純に。年齢や収入などのしがらみに囚われていなければ俺は手を出してしまっているところだろう。

 もう二度くらいは。

 そのしがらみは俺を助けるとともに、感情を抑制するという残酷なことすら行ってきているので感謝など毛頭する気もないが。


 俺の隣のとなりでにこにこ笑っているというよりはヤハハ、と楽し気に笑っているような様子だ。その笑い方やめてもらえないかな。明川が抱いている妄想がことごとく破壊されてしまう。普段は別にまともだから酒飲んだ時くらいは自由にしてもいいと思うけれども。

 兎にも角にもいかにしてこの状況を脱するかが大きな目下の目標だ。勉強とかそういうの以前にこの状況はまずいのだ。いろいろな意味で。

「とりあえず今は離れてくれてもいいんだよエレナ」

「今日は一日くっついてますねアヤくん!迷惑にはならないようにするので!」











 だめだわ話が通じん

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