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始まり

火曜日、二時間目の授業。

この日は先生が出張で自習になった。

めんどくさいので俺は窓の外を眺めながら寝ようかと思っていた。

そんな時だった。


『全人類の皆さん、おはようございまぁーーす!』


少年とも少女ともとれる中性的な声が響いた。


『突然ですけど、ゲームをしましょう!』


いきなり何を言い出すのか。

どこの誰が学校の放送室をジャックしたのか……。

「いや……違うな…………これは?」


『そうだなぁ、「鬼ごっこ」でもしようか!うん、決まり!!』


無邪気に告げる声に、次第に疑問の輪は広がっていく。

「おい、なんか別の場所でもこの声聞こえてるらしいぞ……」

「は?まぁ、こんだけでかいんだし、」

「そうじゃなくて、これ見ろよ」

そう言って隣の席の友人が見せてきたスマホの画面に写っていたのは、ツイッターの画面だった。

韓国、アメリカ、フランス……。

その他にも大量の国の人間が、この声を聞いている。


『えっと、ただの鬼ごっこじゃなくて、鬼に捕まっても大丈夫だよ。でもねぇ、鬼に殺されちゃったら、負けだからね?大丈夫、君たちが鬼を殺せばいいだけの話だからさ!』


何を、言ってるんだ、こいつは。


『全人類七十億人が死ぬか!君たちが鬼を殺し尽くすか!楽しみだよっ!!』


ケタケタ笑う声に、パニックを起こす生徒が出始める。

窓から校庭を見下ろすと、宛もなく必死に逃げ出す生徒もいた。


『あー、一応説明しておくね。どうして僕がこんな事をしたのか』


今までと声のトーンが変わる。

どこか、怒りを孕んだような……


『どうして君たち人類は戦争を繰り返して来たと思う?そういう風に僕たちが造ったからさ!君たちは僕たちの玩具(おもちゃ)なのに……』


ハッキリと、怒りを顕にした声で告げる。


『平和なんて、玩具にはいらないよね。争えよ、じゃなきゃ死んで無くなれよ。僕たち神を楽しませろよぉっ!!!!』


一瞬の静寂。

そこからはもう、何もかもが崩壊した。

何故か、この声の言っていることが……嘘に聞こえないのだ。

全て真実、そう心が、魂が、知っているような。


『君たちは弱いからね、鬼には勝てない。だから、全員にギフトをあげるよ。僕からのプレゼントだ。それぞれみんな違うからね』


いつの間にか、怒りの感情は消えているようだ。

もう一度、神が宣言する。


『ゲームをしよう。とびきりぶっ飛んでいて、とびきりイカれていて、とびきり楽しい殺し合いをさぁ!』


それから、世界の歯車が変わった気がした。

ほんとうに、そんな感じなんだ。

そんな……世界を構成する当たり前が、覆される瞬間。


「きゃああぁあああっ!!!!」


絶叫が響いた。

校庭からだ。

神の声のしていた空から、視線を落とす。

「……っ!!」

そこには、……化物がいた。

筋骨隆々の肉体、体躯は二メートルはあるだろう。

顔には白い仮面が縫い付けられていて、目の部分が簡素に丸くくり抜かれている。

その中に光はなく、闇が広がっている。

「お……鬼…………か?」

そう、本能的に理解した。

さっき神が話していた、俺たちを殺す存在。

それがきっとあれだ。

女生徒がひとり、腰を抜かして倒れている。

綺麗な銀髪、すらりと伸びた肢体。

確か……リベリア…………だっけか。

どこの国からかは忘れたが、留学生だ。

彼女は今、鬼の前で腰を抜かしている。

鬼に恐怖し、周りの誰も、助けに入れない。

……いくしか、無いかなぁ。

「どうして、こういう時は……首を突っ込もうと思うのかなっ!」

窓から飛び降りる。

「おいっ!神田!!」

俺の名前を呼ぶ生徒が数名、悲鳴をあげる生徒がほとんど。

「まぁ、多分……俺へのギフトって」

三階の高さからの落下。

俺の感覚が正しければ……大丈夫。

着地……

ダンッ!!!!!

「やっぱり……身体の強化…………が俺へのギフトかな?」

何となく、感覚で悟った。

リベリアの元へと走る。

鬼がリベリアへと伸ばした腕を回し蹴りで払い、滑り込んでリベリアを抱える。

腰を抜かしているなら、そうするしかないからな。

「……なっ、えっ!ちょ、ちょっと……!」

「うるさい。舌噛むぞ」

「むぅ……」

むすっとして黙り込む。

身体が強化された状態、かつ……運動は得意だからな、これくらいは出来ると思った。

振り向くと、鬼は確かに俺に狙いを定めて、走り出した。

「……走るのかよぉっ!?」

何となく、分かってたけど……怖ぇっ!!!

「ど、どうするのよ」

「んぁ?……分かんないっ!とりあえず、鬼ごっこだし、走って逃げるっ!!」

「はぁ!?ちょっ……私を抱えたまま!?」

「置いたらお前死ぬだろうが!」

「うっ……確かにそうだけど……逃げてるだけじゃ、どうしようもないじゃないっ!」

確かにそうだ。

神は言った。

七十億人が死ぬか、鬼を殺し尽くすか……と。

つまり、人類の総数と同等以上の個体数がいると予想できる。

ここで逃げても、別の鬼に出会う可能性の方が、高い……。

校庭を走り抜け、後者の中へ逃げ込む。

ここなら、狭いから鬼の速度が落ちるだろう。

それに、隠れやすくもなる。

まだ生徒は沢山いるが、正直……関係ない。

「……あんた、名前は?」

「今それ必要か?」

「じゃあずっとあんたって呼ぶわ」

「…………神田征(かんだせい)

「そう……征、征。覚えたわ」

角を曲がって階段を、駆け上がりながら

「で、そっちの名前は?」

「へ?」

「人に聞いておいて自分は名乗らないのはずるいだろ」

この少女は、リベリアという名前しか知らない。

フルネーム、気になるんだよね。

「ん、確かに。リベリア・インスレクトよ」

リベリア……インスレクト、ん、覚えた。

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