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はじまりのとき

短編小説として載せる予定でしたが、連載小説として掲載させて頂きました。

そのため、場面転換など読みづらい部分は出てくると思いますが、

連続投稿するなど読みやすいよう試行錯誤しておりますので、

何かご意見等ありましたらお気軽にどうぞ。感想・アドバイス等も全力待機です(笑)

 石畳の路を淡い色合いの装束を身に纏ったまだ年端もいかぬ少女達が、軽やかに舞いながら行進していく。手足首につけた鈴の音が彼女達の舞をより一層、華やかにする。

 そんな少女達の中でも一際目立つ少女が2人、中心に立つようにして踊りながら行進していた。


「お母さん! はやくはやく、もう始まっちゃってるよー」

 路上には少女達の舞を見ようとたくさんの人でごった返していた。普段のシュタッヘルの街の顔とは全く違うその賑やかさに、いかにこの祭りが人々に愛されているのか分かる。

「はいはい、焦らないの。坊や、走ったら危ないわ。巫女様は逃げやしないよ」

 人の波を掻き分け、その先の景色を見ようと足踏みしている少年を母親が窘める。

 隣に立っていた父親が、顎髭を撫でながら呟いた。


「今年の巫女様は、陽光と芽吹の巫女様なんだなあ」


 彼がやる視線の先には、誰よりも煌びやかに、そして神々しい2人の少女がいた。

 2人とも非常に美しい。生命力に満ち溢れ、意志の強そうな瞳の少女と優しげに微笑み、慈愛に満ち溢れた瞳の少女達。

 少し勝気そうな少女の頭には、金を基調とした宝冠を飾られて、その真ん中には陽光の精霊をイメージしたトパーズが嵌められており、細かく稲妻の模様も彫られていた。繊細なその模様に、いかに腕の良い職人が作ったのかが分かるだろう。衣装も宝冠の色と合わせ、光の具合によって金色に輝いていた。彼女の燃え上がるような赤い髪がより一層、衣装を映えさせる。

 落ち着いた雰囲気を持つ少女は珍しい桃色のウェーブがかった髪に、黄緑色の宝冠を載せ陽光の巫女同様、宝冠と同じ色の衣装を身に纏っていた。どこか愛嬌を感じさせるその顔立ちは、周りで踊る少女達とあまり年齢が変わらないようにも思える。


「あれ、芽吹の巫女様って……」

「ヌルデの娘さんだな! さすがだなぁ」


 陽光の巫女が“美しさ”なら芽吹の巫女は“愛らしさ”だろう、と夫婦が話しているのを、隣でクレストは聞いていた。


「お、巫女様の精霊の舞が始まるぞ!」

 曲調が変わり、陽光と芽吹の巫女の周りで一定のリズムで踊っていた小巫女達が、ステップを変え始める。それを見た街人が高らかに声を上げ、“待ってました”と言わんばかりに身を乗り出した。

 この豊穣祭の真骨頂である、精霊の舞が始まるのだ。


 鈴の音が一糸乱れずに鳴り渡る。先が開いた筒状の煙管のような物から泡が出てきては、表面に美しい光景や楽しげな精霊達の姿が映る。

「ねぇねぇ、どうして泡に何かが映っているの~?」

 不思議な現象に、はしゃいでいた子どもは母親に尋ねた。


「あれは“鏡写し”だよ」

 少年の肩を抱き寄せながら母親は言う。隣に立っていた父親がよく見えるように、と彼を肩車した。泡には見たことのない景色や、見たことのない動植物が映っている。地面に落ちても人に触れても決して泡は割れない。


「鏡写し?」

「そうさ。精霊に愛された“精霊の愛し子”から選ばれる一握りの巫女様にしか出来ない芸当だよ。精霊と会話をすることが出来る唯一の存在である巫女様達を介して、水や泡などの媒体に精霊の記憶を反射させるんだ」

 豊穣祭の一番の盛り上がりはこの精霊の舞だということも母親は言う。


「巫女様ってどうやったらなれるの~? ぼくにもなれる?」

「いい、巫女様っていうのはね、この世界を創った光、水、草木、地の精霊と会話が出来る女の子のことなのよ。坊やは巫女様には残念だけどなれないの。だけどなれない人々に対して、巫女様は毎年、豊穣祭でこうして精霊に捧げる舞や歌を見せてくれるのよ」

「でも、2人しか巫女様はいないよ?」

「ああ、毎年4人揃うことは珍しいさ、何せ“精霊の愛し子”はそんなに数は多くないし、1度巫女様を務められた人は、2度目は出来ないからな。今回は光の精霊の愛し子、陽光の巫女ダリア様と草木の精霊の愛し子、芽吹の巫女我らがカレンちゃんだな!」


 父親が息子に説明するのをクレストはちゃっかりと聞いていた。

 クレストは桃色の髪をなびかせ、軽やかにステップを踏むカレンを見やる。

「カレン……彼女だ、あの子しかいない」



 ◆ ◇


 豊穣祭は特に問題もなく、無事終えることが出来た。カレン達が活躍する前半の3日間は終わり、残り3日間は屋台が路上へ並ぶ。そこではカレン達の役目はなく、あとは最終日の神官の祈りのみだ。もう出番が無いとカレンは肩の荷を降ろす。


『凄かったわ、カレン! とっても可愛らしかったわよ!』

 そう言い、カレンの肩に座り込むようにしてこちらへ笑顔を見せてくるサクラの精フルール。彼女の小さな蝶のような羽が感情を表すかのように2、3度羽ばたく。


「ありがとう、フルール」

 優しくフルールへ微笑みかけると、小さなサクラの精は嬉しそうに笑った。


「ねえ、カレン嬢?」

「ダ、ダリア様……」

 着替えをしていると、先に着替え終わったらしいダリアがカレンに話しかけてくる。

 腰に手を当て、口許を扇子で覆うその姿は誇り高い貴族の子女らしい。巫女といえども庶民の身であるカレンは、そうした華やかな場に行ったことはないが、きっとそこはダリアのような少女が集うのだろう。社交界とは甚だ面倒くさそうな場所だ。


「さっきの舞、わたくしから少し遅れていましてよ? あれでは芽吹の巫女の面子が立たないのでは?」

 ダリアは特別カレンの事が嫌いなわけでも、いじわるをしてくるわけではない。

 そう、誰にでもこの態度なのだ。だからこそ気を使うというか、何というか。相手は貴族なので余計に神経を使う。


『面倒くさい女ねぇ……』

「し、フルール!」


 陽光の巫女であるダリアに草木の精の声は聞こえないが、それでも耳元でそんなことを言われたら聞かれていては、と焦ってしまう。

「ご、ごめんなさい……」

「まあいいのよ、わたくし達はこれで最後ですし」

 ダリアはそれだけを言うと従者を連れてさっさと行ってしまった。いちいち言わなくても良くない? というフルールの文句には賛同だ。


 ダリアに指摘され落ち込みながらも、カレンは準備を終えると家へと帰った。

 父親が経営している『ヌルデの花屋』は、シュタッヘルの街一番の花屋だ。

 元々知名度のある店であったうえに、その娘カレンが“芽吹の巫女”に選ばれたと知って近所の人々は大騒ぎである。家の前は花束や手作りのお菓子、カレンの好きなりんごタルトやら貢物を持った人々で溢れかえっていた。


「お帰り、カレンちゃん!」

「カレンちゃんの舞、見たよ!」

 みな口々にカレンを褒めてくれる。外の騒ぎでカレンの帰宅を知った父ヌルデが、家の中へ招き入れていると、ふと背中に視線を感じた。振り返ってみれば、学習棟生時代に同級生だった少女達が何とも複雑そうな表情でカレンを見つめている。


「あ、あの……」

 話しかけようと一歩踏み出すと、彼女達は蜘蛛の子を散らすように逃げ去ってしまった。


 また……避けられてしまいました……。


 やり場のなくなった手をフルールがそっと握ってくれる。


『大丈夫よ、カレン。あたしがいるんだから!』

 任せなさい、と言わんばかりに胸を叩くフルールにカレンはそっと微笑んだ。



 ◆ ◇


 ヌルデがやっている花屋はシュタッヘルでも有名で、花の鮮度や美しさが一番優れている、まるで精霊が宿っているようだ、と国王陛下にも褒められた程の実力を持つ。

 いつものように店頭に花を並べる為、朝に調達してきた花々の長さを揃えていると、随分と懐かしい顔が見えた。


「クレストじゃないか!」

「久しぶりだな、ヌルデ!」

 2人は暫くの再会を抱擁で確かめると、ヌルデに案内されクレストは中へと入って行った。


 街の小さな花屋、ということでクレストは聞いていたが案外家の中は広かった。それなりに空間が広いというのもあるが、何より無駄な物が少ない。

「それで、クレスト。何か用だったのかい? 釣りのお誘いかな?」

 辺境伯であったクレストと一介の花屋であるヌルデは、たまたま釣り場が一緒だったということから意気投合し、親交を深めていった。

 身分が格上のクレストに敬語ではなく話しかけられるのは、ヌルデだけだろう。

「単刀直入に言わせてもらおう。我が甥の妻にカレン嬢を貰えないだろうか?」


 カレンの名を出した途端、先程まで温厚な微笑みを浮かべていたヌルデが鬼のような形相に変化する。花切ばさみをクレストに突きつけてヌルデは言う。

「それは無理な話だ。うちの子は将来、神官にさせようと思っている」

 巫女を務めた少女は、その地位を手に貴族へ輿入れするか、或いは神官を務める事が多い。娘を嫁にやりたくないヌルデは後者の道をカレンに歩んで欲しがっていた。


「そこを何とか頼む! お願いだ、甥を助けられるのはあの子しかいないんだ!」

「断る!」

最後までお読み頂き、ありがとうございました!

彼らの行く末を見守ってくださると幸いです。

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