千 二
日が開いてしまいましたぁ
冬休みは特にすることもなくアルバイトをして暇なときに葵と一緒に過ごす日々を送った。僕は書店でバイトをしているのだがこの冬休みに新しく入った人がいてその人は伊藤といって僕と同じ大学一回生だった。彼はここの書店では珍しく気さくで明るいやつだった。彼はよく僕に話しかけてくれ僕と伊藤はすぐに仲良くなった。
ある日、冬休みももうすぐ終わるので僕と葵は出かけることにしたのだがそのときたまたま伊藤に見られていたようで、それから伊藤は会うだびに彼女はどうなったかなど意味もないことを聞くようになった。
「いーよなー彼女がいて、俺はこの19年間彼女いないぜ」
バイトを終えて帰る支度をしながら伊藤はしゃべる。
「へー彼女できたことないんだ。けっこう意外だね」
僕も伊藤の言うことにはもう慣れている。
「まぁね。好きな子とかあんまりできたことないんだよ。でもお前の彼女かわいいよな。まぁ青池くらいイケメンだったら勝手にできるんだろうけど」
「僕も今の彼女と付き合ったのが初めてだよ」
「へー、青池ってあんまりしゃべらんから近づきにくいんじゃね」
「あー、それはちょっとあるかも」
「それより今日どっか食べに行こうぜ。今日、家帰っても何もないんだよ」
伊藤はもう食べに行く気である。
「いいよ。どこに行く?」
「ラーメンに行こう。うまいところあるからさ」
それから僕と伊藤はラーメン屋で食事を済ましてそれぞれ家に帰った。伊藤は麺をすすることができないみたいで箸で麺を持ち上げては口に入れてを繰り返していた。僕はそれがおかしくてずっと笑っていた。ラーメンが好きなのに麺をすすることができないとはいかがなものか。
この冬休みで僕の日常は大きく変わった。彼女ができ、バイトでは面白いやつが入ってきた。しかし大学では何も変わっていないようにした。僕と葵が付き合っていることは秘密にしておいた。これは葵から秘密にしようと言ってきたのだ。ばれたらそれまでで意味はないのだけれど何だか可笑しかった。僕はいつも一緒にいるグループで授業を受けていてそれはみんな同じであった。何だか講義室にいる人達がみんな操られている人形のように見えてきた。みんな騙され生きている。
ある日、僕は同じ英語のクラスの女の子にノートを貸したのだけれど、それに対して葵はひどく怒ってしまった。
「ノートを貸しただけじゃないか。そこまで怒ることはないよ」
「嫌だ。ほかの女の子にそんなに優しくしないでよ」
葵は相当怒っているようだ。僕もこれは予想できなかった。
「大丈夫だよ。僕が好きなのは葵だけだから」
僕は彼女の隣に座って言う。
「とにかくもう、こういうことはしないでね」
葵は僕の腕にしがみついて涙ぐんでいる。困ったものである。
「わかったよ今回は悪かったから。気をつけるよ」
葵の愛は僕には重過ぎる気がしてきた。だけどそれも許してしまう自分がいるのは不思議なことだ。
それから葵はアルバイトに行き、僕はバイトも休みなのでしばらくここで座って休むことにした。弱く吹く風が外の冷たさをより感じさせる。来月から春休みになるが春はもっと先にあってこれは何休みと呼べばいいのだろうか。とにかく大学は休みが多い。何もすることがない時間は考える時間が増える。それをして若い大学生と言うものは何かを考えついたり悟ったりするのだろうが僕はそれをしたくない。現実から逃げてただ意味もなく今を生きていければいいと思っている。
沈んでいく夕陽は雲に色をつけ、青い空の向こうにある雲は時間が止まったようにゆっくりと進んでいく。僕は夕陽に照らされ伸びていく影を追いかけながら家へ帰った。
話の展開を今になって考え直しています