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極楽浄土  作者: 羽羅塩
7/8

千 一

一応ここから新しい章ってかんじです~

今は何時だろうか。とっくに朝になっているはずだが、もしかしたら昼になっているかもしれない。しかし起きるのが億劫で仕方がない。冬は布団の温もりをいっそう感じることができる。布団は人間が一番安心することができる場所に違いない。寝ることは生きることと同然である。つまり、このまま寝ていても何も問題は無い。

僕は布団から出ることができずグズグズしていた。そんな中でインターホンの音が鳴った。僕は宅配便でも頼んでいたか考えたがそのような覚えは無い。ともすると迷惑なセールスか宗教の勧誘かイタズラのどれかである。そう思い、もう一度寝ようとしたとき、またインターホンが鳴る。それどころではなく訪問者は何度もインターホンを、鳴らしている。これでは眠れないと思い、僕は起き上がり玄関に向かうことにした。

「鳴り止むまでしばらく待つか。余程の野郎だな。この目で確かめてやる」

僕の下宿先のインターホンにはカメラは付いていないのでドアの前で魚眼レンズを覗いて確かめないといけない。玄関まで来た僕はまだ夢現ゆめうつつの状態でドアの向こうを覗いてみる。するとドアの前に立っているのは葵じゃないか。僕は目をこすってもう一度見るがそこには葵がいる。どうやら夢ではないようだ。葵に下宿先を教えた記憶を無いのだがどういうことだろう。とかくこれはまずい。ちょうど今、僕は布団を出たばかりだし、部屋も片付いていないのだ。仕方がないので少し待っていてもらおう。

「ごめんだけど少し待っていて」

ドア越しにそう言って僕は急いで着替えて顔を洗い、部屋を片付けた。10分程度で何とかなったが彼女は怒っているに違いない。ふと時計を見たが、もう11時を過ぎていた。恐るべし布団の力。否、僕は何をしているのだ。

 僕は恐る恐る玄関のドアを開けた。

 「さっきまで寝ていたでしょ。メールしても全然返事返ってこないし。ばか」

 葵はやっぱり怒っていた。

 「やっぱりバレてた? ごめんメール気づかなかった。寒いだろうし中入ってよ」

 僕は何とか機嫌を取ろうとして彼女を部屋に入れてやった。葵は昨日プレゼントしたマフラーを巻いている。改めて思うと昨夜は妙な時間だった。葵は、あれからしばらくしていつもの葵に戻って一緒に帰った。駅を降りてから僕は彼女を家まで送り届けた。昨日の出来事もさっきまで見ていた夢のようだがマフラーがそうではないことを実感させる。

 「けっこうきれいなんだ」

 葵は部屋を見渡している。隠すものなどはないのだけれども何故だか不安になる。

 「大掃除したからね」

 僕は何もないように答える。

 「でもせっかく御節作ったのにこんな時間まで寝ているとかありえない」

 「え、もう作ったの。作る時間あったの?」

 「早起きして作ったの。それなのに」

 葵は椅子に座って机にあったペンをいじっている。

 「ごめん。疲れていたんだよ。御節もこんなに早く作るとは思っていなかったから。だから許して」僕は手を合わせて言う。「それよりも早く葵が作った御節が食べたいな」

 「伊達巻とかは買ってきたものだけどね。お雑煮作るよ。材料ある?」

 「冷蔵庫も勝手に開けてしまって良いよ」

 葵が雑煮を作る間僕はケータイを見たのだがメールの受信数がすごいことになっていて何だか恐ろしくなってしまった。

 「そういえばどうして葵は僕の家がわかったの」

 僕を思い出して聞いてみる。

 「あー。適当に探したら見つかった」

 葵は手を動かしながら愛想がなく答える。

 適当に探して見つかるものなのか。たとえこのアパートを見つけても部屋まではわからないはずだけど。葵の執念と言うのだろうか、狂気じみたものを感じる。葵はゆったりした服装で全体的にブルーの色で落ち着いている。エプロンがやけに似合っていて僕は変な気分になった。

 「はい、できたよ。お皿ある?」

 「皿くらいは自分で出すよ。」

 そう言って僕はお椀を出してお雑煮をよそう。

 御節も意外とちゃんとしている。そういえば包丁も手馴れた感じだった。

 「じゃあいただきます」

 僕はお雑煮から食べたけど味も申し分ない。葵が料理ができるのは意外だ。

 「すごくおいしいよ。料理得意て言ってたのは本当だったんだね」

 「だから言ったでしょ。美味しくなかったら土下座してやるって。そういえばお雑煮は関西風で白味噌にしたけど大丈夫だった?」

 「全然大丈夫だよ。むしろこっちのほうが美味しいよ。それにしても料理が上手な彼女がいて幸せだよ。いつも買ってきたもので済ますから有難いね。これから作ってきてほしいくらいだよ」

 お世辞ではなく本当に美味しい。ぜひとも今日の夕食も作ってもらいたいものだ。

 「そんなに言うならこれから毎日作ってあげるよ。作りすぎてあまらすことも多いからね」

 葵の機嫌は直っているようだ。

 しかし料理もできるとなるといよいよ非の打ち所がなくなる。しいて言うならば頭が良くないことか。

 「冬休みが終わればテストも近いけど葵は大丈夫なの?」

 「またバカにしているんでしょ。私、こう見えても成績はトップクラスだよ」

 葵は食べていた伊達巻の手を止めて言う。

 「本当? 下から数えたほうが早そうだけど」

 僕は成績には自身がある。と言うのも大学はもっと偏差値が高いところを狙えたのだが早く決めてしまいたかったので指定校推薦で決めたのだ。成績優秀者として奨学金ももらっている。

 「そんなに言うなら見せてあげるよ。ほら」

 顔の前に突き出されたケータイには成績が載っていたのだが見てみると僕よりもいい成績だ。こうなると僕と葵では不釣合いな気がしてくる。

 「僕よりも良いじゃないか。驚きだよ」

 「だから今度のテストも簡単だよ。授業もちゃんと起きているし」

 「授業で起きていれるなら電車でも起きててくれよ」

 昨夜も葵は電車で寝てしまい僕が起こす羽目になったのだ。早めに起こしたので駅を通り過ぎることはなかったがやはり周りの人に見られてしまった。

 「またその話。仕方ないじゃん、寝てしまうのは」

 そう言って葵は再び伊達巻を食べだす。

 お正月はこうして過ごすのも悪くはない。僕はお雑煮を食べながら思った。

たのし~Everyday

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