萌六
自己満足が満たされれば執筆も速くなるんですけどねー
僕達は再びもとの河原町に戻りカフェで休憩をしていた。葵も僕も歩き疲れて会話がいつもより少なかったが頼んでいた玉子サンドがくると葵はすぐに元気を取り戻した。
「おいしそー! これだよ! テレビで見たの! 写真撮ろう」
確かに厚焼き玉子が大きくて衝撃的である。これが美味しくないわけが無いだろう。
「いただきます」と言って彼女はサンドイッチを頬張っている。葵はとても美味しそうに食べるので見ていて気分が良い。やはり一人で食事をするよりも誰かと一緒のほうが良いものである。夏休みはずっと一人で似つかわしくないが少し孤独を感じてしまったものだ。冬を一人で越すことには幾ばくか不安もあったが彼女がいると変わるものだ。孤独には慣れていると思っていたが人間は弱い。しかし京都は人が多い。多すぎるのも疲れるし、逆に孤独を感じてしまうことも少なくない。全く致し方がないものだ。
「あーおいしかった。私もう満足だよ」
サンドイッチをあっという間に平らげた葵は言った。
「花より団子と言うやつかな。まだプレゼントのマフラーがあるのだからここで満足してもらったら困るな」
僕はマフラーを選ぶのが楽しみで気分が乗っているのだ。
「プレゼントはもちろん楽しみだよ。デザート?別腹みたいなものだよ。健吾もやけに気合が入っているね。何かあるの」
「このプレゼントは僕の為のものでもあるんだよ」
「えぇー、もしかして一つのマフラーを二人で巻くとか。私、恥ずかしいよ」
「そんなのじゃないよ」
流石に僕もそれは恥ずかしいし、そんなの見たこと無い。
「まぁいっか」
葵は、そう言ってさも満足そうにしている。何だかハードルを上げられた気分だ。
こんな調子で昼食を済ませた僕達はショッピングをしたりゲームセンターに行ったりして時間を過ごした。時間はあっという間に過ぎた。僕はショッピングなどは、あまりしないのでどうしようかと思っていたが意外と楽しむことができた。と言うのも葵に引っ張り回され、それに付き合ういつもの事だったからである。葵はクレーンゲームが上手くて、捕り方を僕に教えてくれたけど僕は全然できなかった。こんな事をしていながらもマフラーをどこで買おうかとずっと考えていた。しかしファッションに興味が無い僕は、答えが出るはずもなかった。結局、葵が自分で店を選んだ。せっかくのプレゼントだから少し値が張るものにした。
「どれがいいかな」
葵はマフラーを一つ一つ観察しながら言う。葵が優柔不断だという事は知っているので僕が早く決めてしまおう。
「これとか似合うと思うよ」
そう言って僕は青色のマフラーを手にした。
「うん。これにする」
葵は何も迷いや不満もなく決めてしまった。あれだけ迷っていたのにこんな簡単に決めてしまうのかと思い僕は、もっとしっかり選べばよかったと少し後悔した。葵がこれに決めたのだから今更決め直すこともないだろうと考え僕はレジで会計を済ました。
「本当はサプライズで驚かしたかったんだけどね」
僕はプレゼントを渡そうとしたが葵は受け取らずに先に歩いていく。
「ちょっと待って葵。どうしたの」僕は葵を止めて言う。「僕、何かした?」
「もう少し人がいないところに行こう」そう言って葵はまた歩き出す。
僕は歩いている間、彼女の機嫌を損ねるようなことをしたか考えていた。このときは葵が何を考えているのか全然わからなかった。
しばらく歩いて僕達は河川敷の比較的に人が少ない場所に着いて腰を下ろした。僕は葵が何を言い出すのか不安であった。心臓の脈が早くなりその音が僕の中で響く。暗い河川敷で周りの店の明かりや月の明かりでぼんやりと葵の顔が見える。彼女の表情からは哀愁が感じられた。僕は水面に反射する光をぼんやりと見つめていた。静かになった辺りは川の流れる音だけが響く。それは、いっそう静寂を強くした。
「なんだか懐かしい感じがするね。さっきはごめんね。別に怒っているわけじゃないから。プレゼントはすごく嬉しいんだよ。だけどこのプレゼントは私にとってすごく特別なもので、この時間を大切にしたかったから」
このとき僕は葵にも何か隠していることがあるのだと感じた。人間に表と裏はある。彼女の中にある裏は大きい気がした。やっぱり僕は何もわかっていないじゃないか。
「マフラー巻いてほしいな」
葵は言った。
僕はマフラーをやさしく巻いてあげた。葵は声を殺して泣いていた。僕もひどく寂しさを感じてしまった。この世界が僕と葵だけしかいないように思えた。
これ読んでいる人いるのかな