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極楽浄土  作者: 羽羅塩
5/8

萌 五

ちょっと熟成させてから投稿しました。

伏見稲荷は元日にも関わらず大勢の人がいた。その中には友人と来ている人や僕と同じようにカップルで来ている人もいたが僕は一人で来ている人に目が付いた。僕はこのような観光地では誰かと一緒に来るものだと思っていたが一人でも良いのだと安心した。確かに一人で来たらいけない理由などない。それに此処は神社なのだ。神聖な場所なのだから遊ぶような気分で来るのもどうだろうか。とかく僕は先入観にとらわれてしまっていた。

「今度は寝なかったよ」

葵は電車で寝なかったことを誇らしげに言った。

「流石は葵。一度した失敗は繰り返さない。本当に尊敬するよ」

僕は皮肉を込めて彼女を褒めた。

「そうだよねぇ。葵ちゃんは本当に素晴らしさが溢れてるよ」

葵は大袈裟な手振りをして言っているが恥ずかしくないのだろうか。

「外国人多いんだねー。やっぱり京都は人気なんだね。あっ、ねこいるよ」

葵ちゃんは楽しそうだ。

 「一緒に写真撮ったりしないの」

 僕は気付いて言ったが、これは気付くのが遅過ぎたかもしれない。付き合い始めてから一緒に写真を撮っていないのだ。

 「私、写真に写るの苦手なんだけど、撮った方がいいかな」

 「葵が嫌なら別に良いよ。僕も写真は、そんなに好きではないから」

 何だか意外だな。葵は写真が好きだと思っていたのだが。それで風景ばかり撮っている訳だ。

 「写真を撮るのはやめで、お参りして早く鳥居がいっぱいあるところ行こうよ」

 「そうだね。写真はやめよう」

 しかし、これだけ人がいれば大学の知り合いもいるかもしれない。僕が葵と付き合っていることは、葵も僕もまだ誰にも話していないから見つかれば面倒だ。それに葵は顔が整っているし人気者だから噂にもなるだろう。これは一番心配していることである。葵は男からよく話しかけられているからなぁ。彼女の人気は落ちなくても僕は周りから嫉妬されるかもしれない。所謂、美少女と付き合うという事は優越感に浸ることができるが危険も付き物である。僕が今まで告白してきた子を振ってきたのは、このようなわけである。生意気だと思うが告白をしてきた人達は何も分かっていない。みんな容姿に惹かれただけで僕の気持ちなどは考えていないのだ。だけど何故だろうか。葵はほかの人と違っていた。彼女といると懐かしくなる。どこかで会ったことがあるのだろうか。

 神社で参拝を終え僕達は無数の鳥居でできたトンネルへ着いた。

 鳥居は観音像と違って無機質で慈悲を感じることも無いので僕は好きだ。朱色は暖かく、冷たい季節に良く合う。葵はさっきから写真を撮っているが写真を撮るたびに立ち止まらないといけないのでちょっと面倒でもある。しかし、そんなことを言えばまた彼女に怒られるだろう。

 「すごいねー。外国人に人気なわけだよ。もっと写真撮って自慢しよ」

 「そういえば葵の実家はどこにあるの」

 彼女が一人暮らしであることは知っていたが地元がどこにあるのかは今まで聞いていなかったのだ。

 「健吾と同じ千葉だよ。知らなかったっけ」

 「同じだったんだ。あまり方言とか言わないから関東のほうだとは思ったけど。あっちだと京都は滅多に来ないからね」

 「そうそう。だからいっぱい自慢するんだ」

 それからも僕達は他愛もない会話をしながら鳥居の道を進んだ。こう言う何でもない会話も夢のように思えてくる。アスファルトと建築物の灰色の世界で過ごしていれば山や海などの自然の中にいるとまるで別の世界にいるような気になってくるものだが、人間が作った鳥居があると不思議と安心する。僕は何も考えず彼女と歩いた。


これからがはじまりです

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