初戦闘で、彼らはこの世界の厳しさを知る。
初の戦闘描写です。まだまだ下手くそですが、読んでくださると嬉しいです。
クラス転移から二週間が経過。
俺たち非戦闘員の表面上、立場は改善されたが、態度はそうではなかった。
「今日も掃除やっとけよ!」
起きて朝一番に言われた台詞がこれだ。完全に上から目線だ。
まあ、これでもこの間のことで状況はかなり良くなった。信頼されなくなったことで笠島は失脚し、笠島の取り巻き以外は非戦闘員に理不尽なことをしないようになった。まだ扱いはかなり酷いが。
まあ、俺だけは別だけどな。俺と笠島に全てのヘイトが集まったと言えばいいだろうか?
まあ仕方のない事かもしれない。笠島は信用を失った。そして俺はあいつらを売ろうとした。そう判断されているのだから。
「はあ、何でこの歳で働かねえといけねえんだよ」
今の現状に愚痴を吐く。俺まだ中学生だぞ。こんな歳で社畜になりたくねえよ。
それでも、仕事はやめられない。止めてはいけない。これから生きていくために。
「……やっとか」
頭に電子音が響き、俺は仕事を中断する。
今俺が……俺たちがやっているのはいつものような雑用ではない。
目の前には、周りの緑とは違い、吸い込まれるような暗黒色の狼、『ダークウルフ』が横たわっていた。
つまり、拠点から出てはいけないという規則を破り、モンスターを狩っているのだ。
理由は単純、レベリングである。
このまま、戦闘組と差が開けばこないだの二の舞になるかもしれない。
それを避けるため、というのが一つ目の理由である。
「おお、レベルが上がった! やったな輝明!」
「お前に名前言われるとイラっとくる。さっさと爆発しろ」
「ひでえ……」
このやりとりをしている相手はもちろん、憎っくきリア充、速水薫だ。
なぜこいつといるのか。それはパーティーを組むためだ。
速水は俺に笑顔を見せるが、この前の事を思い出したのかすぐにその笑顔は消える。めんどくさいやつだな。
正直、こいつとは組みたくなかったが、俺一人ではダークウルフを倒せない。だから不本意ながら、誠に遺憾ながらもこいつと組んでやってるのだ。
「ふ、二人ともケンカはダメですよ?」
「風見ちゃんもそう言ってるしやめなよ」
もちろん女勢も付いて来ている。いや、おまけかよ。
まあ、速水と二人きりよりはマシか。
「それで……レベルは?」
速水への呪詛を頭の隅に追いやり、全員のレベルを確かめる。
俺と速水はレベル6、藤井と風見はレベル8。体格差を補うためか男子と女子では女子のほうがレベリングの効率がいいらしい。
ちなみに笠島含め、前衛班は大抵がレベル15越え。俺たちからすれば化け物レベル。つまりリア充全員化け物。Q.E.D.証明終了……んなわけあるか。
「な、なあ輝……横川」
「……んだよ」
なんで名前呼ぼうとすんだよとか、リア充馴れ馴れしすぎだろとかいう思いは口に出さない。もう慣れたし。
「もうあれをやってもいいんじゃねえか、あいつらもそこまで気が回らないだろ」
「……いや、万が一を考えーー」
話そうと思っていた事が途中で遮られる。
ーー獣の咆哮。
それは聞き慣れたもので「またか……」と思いながら戦闘準備に入る。
そこまでして、ふと、違和感を感じた。
「まさか、大群か……?」
速水がそうつぶやく。確かにあれは一個体が出せるような音量ではなかった。
「いや……どうやらそうじゃないみたいだな」
だが、あれが複数体で出されたものではない。それはすぐに分かった。
周囲の木が倒れているみたいだ。前方から轟音が響く。こっちに向かってきてるのか?
「俺と輝明がここに残る……藤井は風見と神崎と転移してくれ」
「おい、何気に俺を巻き込むんじゃねえよ」
俺の了承もなしに勝手に巻き込もうとする速水に文句を言うが、仕方ないか。
藤井の転移は一時間で三回しか使えない。つまり俺と速水はここにのこるしかない。
「うん分かった、気をつけてね」
「ああ、任せろ」
「だから俺を……はあ、まあいいか」
藤井が風見と神崎の手を握ると三人は、跡形もなく消えた。無事転移したみたいだ。
そして俺はここら辺一帯を整理する。
俺のスキルは発動場所を知覚していないと使えない。つまり、初見の地だと視界が悪ければ悪いほど不利になるのだ。開けた場所を作らないとまともに戦えず、スキルには頼れなくなる。
そして、周囲の発光が止み、開けた土地ができた瞬間ーー
「グオォォォォォォ!!!」
目の前の木がなぎ倒され、それは姿を表す。
黒より真っ黒な体に艶やかな毛、どれもこれもダークウルフと同じ。ただ、血のような真紅の目と、大きさが二倍以上はあること以外は、だが。
その図体の大きさに似合わず、俊敏にこちらへ向かってくる。
「おい、速水」
「ああ、わかってる」
速水は俺の言う事を分かっていたのか、そう返事する。そして、彼は地面に手をつき、スキルを発動させる。
「『錬成』!!」
刹那、怪物の四方に巨大な壁が現れる。
土の中に混じっている、鉱物をありったけ集め、壁にしたみたいだ。
怪物は動揺し、動けないでいる。足止め程度かと思ったが……今がチャンスだな。
「……『建築』」
さらに追い討ちをかけるように俺は建築スキルを使う。
先の尖った、木でできた槍のようなものが数十、数百と雨のように怪物に降り注ぎ、一つ一つが怪物の体に突き刺さっていく。
完璧に俺たちの勝ちだ、そう思っていた矢先。
「ガァァァァァァァ!!!」
「う、嘘だろ」
痛みからか、何もできない怒りからか、怪物は暴れ出し、速水の作った壁は崩壊する。
そして、突き刺さった矢を無視し、あわてて俺と速水が作った壁もぶち壊しながら地を駆ける。
「れ、『錬成』ぇぇぇ!」
「け、『建築』!」
何度も何度も壁を作り上げる。しかしそれは、一枚、二枚とまるで紙を貫くかのように容易く崩れていった。
ーーピシ、リ。
「あ、あああ……」
目の前の壁、俺たちを守る最後の防壁に亀裂が走る。その亀裂は瞬く間に大きくなっていく。
心の中で絶望が膨れ上がるのがわかった。これは、こんなに大きい絶望は……あの時以来だ。
死ぬ覚悟は決まってない。まだ死にたくない!
ドシン。
「う……え?」
俺の願いが叶ったのか、怪物の侵攻が止まり、勢いをなくして地面に崩れ落ちた。
速水が素っ頓狂な声を漏らす。
怒りに任せ、俺たちを殺そうとしたところで力尽きたのか、その怪物が再び動くことはなかった。
《レベルアップしました》
「た、助かったのか?」
頭の中でファンファーレがなり、無機質な声が響いた。それで、たったそれだけで生きている事を実感できた。
ああ、生き残れたんだな、俺。
神とか奇跡の存在など信じてはいないが、それでも、それに柄にもなく感謝している自分がいた。
「生き残れたんだよな、俺たち」
今生きている事を噛みしめるように速水が呟く。
先ほどまでの絶望感が嘘みたいだ。
「あ、そうだ。ステータス……」
速水が思い出したように、ステータスを確認する。
そういえばレベルアップしたとか言ってたな。
頭の中で、『ステータス』と念じ、レベルを確認する。
ーーーーーーーーーー
横川輝明 Lv.18
職業 建築士
異能 建築 整地
称号 ボス討伐者
ーーーーーーーーーー
「「…………は?」」
速水とハモった。
え、ちょ、一体でレベルが十近く上がった?
え、なに? なんなの? あれボスだったの?
……マジかよ。
今更ながらに、自分のやったことがいかに無謀なことか痛感させられる。
だが、悪いことばかりではない。レベルも上がった。一気に戦闘組に追いついた。ならばーー
「……速水」
「ん、どした?」
「今夜決行だ」
「……ああ」
そろそろ行動するべきだろう。自分たちのためにも。
ご閲覧ありがとうございます。次回も宜しくお願いします。