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クラス転移。〜もらったチートは建築士!?〜   作者: 瀬戸浩也
横川輝明たちのクラス転移。
5/16

理不尽に、笠島は彼らを役立たずと評す。

 結果、森の一部と教室が消滅した。比喩ではない。本当に消滅したのだ。しかも数秒で。


「ふー、いい仕事したな」

「あ、あれ? 俺疲れてるのかな? 森と教室が発光して消えたように見えたぞ?」

「はわわ。な、何が起こったのですか?」

「横川くん、自重という言葉を知らないのですか?」


 いい汗をかいた俺に現実逃避を始める速水、あたふたとする風見になぜか自重について俺に語る神崎。

 そして「あはは……」とどこか放心したように引き攣った笑みを浮かべる藤井。

 ……なにこのカオス。


「整地スキルで魔力使って材料を集めた。あとついでに教室も整地しといた。分かったな?」


 いいわけないでしょうが! とツッコミをいれる藤井。どうやら思考が現実に戻ったみたいだ。


「んな事より、拠点立てるか」

「んな事って……」


 藤井が何か言っているが、この際無視しておこう。

 たった今十分すぎるほどの材料を手に入れたのでそれを一部だけ使い建設スキルで十個くらい家を建てる。小さいが、これで全員屋内で寝れるだろう。


 森の中には羊の死体でもあったのか、ベットも難なく作れた。……これ、生きている動物には効果がないらしい。


 すべての建築が終わったところで疲労感に襲われる。


「……悪い、魔力が切れたみたい……だ」

「え、ちょ!」


 藤井の焦った声がかすかに聞こえる。倒れそうになっている俺を支えようと、こっちに来ている。しかしそのまま意識は暗転し俺は気絶した。



 ◇◆◇



 クラス転移から一週間が経過した。


「今日も狩りに行くよ!」


 相変わらず笠島は調子に乗っている。ここ周辺の地形や狩場を調べては毎日のように魔物狩りに行っている。


 この一週間で変わったことは、戦闘員とそうではないものの区別がついたことだ。

 戦闘員とはその名の通り、戦闘向きのステータスを持った者。反対に非戦闘員は俺を含め、五人の戦闘向きではない者と下田先生だ。

 下田先生は能力はどちらかと言うと戦闘向きだが、威力が弱すぎて使えないということで追い出されていた。なお、本人は気にしていないみたいだ。


 そして戦闘員との区別がついたことで笠島たちの横暴さも悪化していた。

 俺が作った家に難癖をつけ始め、あまつさえ俺たち非戦闘員を阻害し始めた。

 俺が作ったはずなのに俺たち非戦闘員を押しのけ住み始めた。


「俺たちはお前らのために戦ってるんだ。なら俺たちが優先されるべきだ」


 これがあいつらの言い分だ。それは俺たちのためじゃなくて自分が戦いたいだけだろ。

 あれから毎日毎日、俺たち非戦闘員はタダ働きさせられている。……下田先生も例外ではない。


「はあ、働きたくねえ……」


 今は家の掃除をしている。いや、無理やりさせられていた。

 この前にはここら一帯の雑草抜きもさせられた。

 そのことに不服は……はっきり言って結構ある。なんで雑用ばかりさせられるんだよ……。

 だが、戦えない俺たちはこうするしか生きる方法がないのだ。少なくとも今は。


「横川、昼飯の時間だぞ……」

「……分かった。今行く」


 俺が担当している部屋に昼食だということを伝えに速水が来る。時計を見れば、もう十二時をとっくに回っていた。仕事を中断し外に向かう。

 俺たち非戦闘員の五人と下田先生は外の大きな長方体の石を囲んで座る。

 家の中は使わしてくれないので俺が建設スキルを使って作ったものだ。


「今日も薬草と水のみか……」

「仕方ないよ、私たちはあまり役に立ってないし……」


 気まずそうに風見が言う。こんな食事が数週間続いているせいで、俺たちの体力は精神的にも肉体的にも限界だった。


「……仕方ねえな。ストックを少し使うか」


 実はこの状況がさらに悪化した時のために、食料を整地して保管している。何回かのの検証の結果、こうすると状態が保持され腐らないことが分かったのだ。


「それはもしもの時のためだろう、いいのか?」


 下田先生が尋ねてくる。まあ、非常時のために取っておいた食料を使うのは抵抗があるのだろう。


「これじゃ餓死してしまう、背に腹は変えられねえよ」


 俺は建設を使い、ストックしておいた食料を少しだけ具現化する。薬草ばかりだが、中にはパンの欠片もいくつか混じっている。

 転移の日の誰かの昼食だったのか、封を切る前のものが教室を整地した時にいつの間にか手に入っていたのだ。


「う、うめえ……!」

「おいしい……」


 久しぶりのパンが美味しく感じたのか速水と風見が夢中で食べる。

 俺と藤井、そして神崎に下田先生も食べ始め食料はすぐにテーブルの上からなくなった。


「ご馳走様でした」


 食事が終わると活力がついたのか互いに持ち場に戻り、仕事を始める。

 起きてから寝るまで働く。それが俺たちの生活のサイクルだった。

 まだ休憩時間があるだけマシなのかもしれない。

 だが俺たちの、笠島への不服は日々募るだけだ。


 それにこの頃、笠島たちが帰ってくる時間が日に日に遅くなっているような気がする。

 それだけ遠くに行っているのだろう。

 ……なら、そろそろ計画のために動くべきだな。


「……話がある。聞いてくれ」


 あとはこの場にいる全員を説得して準備をするだけだ。



 ◇◆◇



 この日の仕事がすべて終わると日は沈みかけていた。

 そして笠島一行が帰ってくる。

 理不尽に扱われるのはわかっているので、俺たちは巻き込まれないよう少し離れた目立たないところで休んでいる。


「みんな聞いてくれ!」


 帰って来るなり、笠島は大声を張り上げ注目を集める。どうせまた何か良からぬことを考えているのだろう。


「僕たちはこれまで数々の魔物を倒してきた。それも命をかけて! だけど、そうでないものがいる!」


 そう言うと、笠島はこちらを睨んでくる。その顔は俺たちを見下すかのように嘲笑っていた。


「彼らは僕たちが命をかけて戦っている間にものうのうと安全に過ごしている。それはおかしいだろう!」

「そうだ! あいつらだけが安全に暮らすのは許せない! 追い出すのが一番だ!」


 笠島の問いかけにその場にいる者たちは力強く頷く。

 使うだけ使って捨てるつもりなのか。

 あまりの理不尽さに俺たちは絶句する。

 そもそもお前らは俺たちのことをタダ働きさせているではないか。

 それにまだ準備は終わってない。少なくとも数週間はかかる。今追い出されるのはすごくまずい。


「何言ってんだよ!」


 そんな中速水が立ち上がり、笠島を睨みつける。笠島は余裕の笑みを崩さない。


「俺は役立たずでもお前らのために掃除とかいろいろやってんだぞ! なんで貶されなけりゃならねえんだ!」


 ――違う、言うべきところはそこじゃない。真っ向から反論してもこいつらは絶対に聞き入れない。


「でも戦闘はしてないだろう? 結局役立たずじゃないか」


 こうやって簡単に言い返されるのが関の山。それも笠島みたいなやつならなおさらだ。


「ぐっ……それでも、役に立ってることだってあるだろ!」

「ほとんどないね。良いからさっさとこの場から消えてくれないかな?」

「笠島。俺たち、友達だったじゃないか……」

「役立たずは友達じゃないね」


 友達がいたことはないし、友達がどういうものかはわからない。だが、こいつがかなりのゲス野郎だということはよく分かった。

 それにこいつは周りに絶対的な信頼を寄せられている。

 ならば、そこを利用させてもらう。


「すまん、なんの役にも立てなかった」

「……速水、差別をなくすにはどうすればいいと思う?」

「えっ?」

「この問題、俺が解消してやるよ」


 速水のやり方、正攻法がダメなら俺のやり方を使う。

 ――底辺なら底辺らしく、卑怯に姑息に、周りを利用してな。

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