やはり笠島は、狂っている。
いきなり題名変えてすいません。
言い訳させてもらうと……って前もやったよなこのくだり。
いとこに「題名長すぎるし、見た瞬間読む気失せる」と言われ、短く簡潔にまとめた結果、これになりました。本当にすいません。
あと、もう一つ投稿させてもらっています。宣伝みたいで申し訳ありませんが、『主人公に転生憑依。〜卑怯者でも主人公、だと思っていた時期がありました〜』もよろしくお願いします。
俺は横川。幼小中とぼっちを貫いてきたエリートだ。
何か自分で言っていて悲しくなってくるが、置いといて、最近の自分について考えようと思う。
女性二人プラス一匹と男二人と行動し、そして俺以外の奴らは美男美女。
なにこのフォーメーション。もはや四面楚歌なまである。
ただ、いつも俺はぼっちだの言っているが、最近はそうでもないことを自覚する。
例えば可愛い女の子と話したり、風見に癒されたり、速水と模擬戦したり、風見に癒されたり、神崎の理論に屁理屈で対抗したりしていたこと。
端からみれば完璧にリア充だ。
主に風見に癒されるところとか。ふへへ。
「テルアキさん。笑顔がちょっとアレですよ」
「ん? ああ、悪い」
「卑猥なことでも考えてたんですか? ちょっと顔がアレなので星になって燃え尽きてくれませんか」
「俺の顔面は不自由じゃないし居場所だってないわけじゃない。あと、年頃の男児が卑猥なことばかり考えていると思ってんのならそれは偏見だ! ……ておい、なんでお前が『よだかの星』知ってんだよ」
「マモルさんから借りました」
「ああそう……」
まあ神崎なら宮沢賢治の作品持っててもおかしくはないだろう。
本当になんなのあいつ。優等生なの? ……優等生だったわ。
あと、言い訳させてもらうなら、可愛い風見が悪いのだ。いや、可愛いは正義だ。
じゃあケモミミが悪いのか?
そうだそうだな絶対そうだ。
結論。風見は正義。
そんな結論を出しながらも足を進める。
今何をしているかというと、まあいつも通りレベリングと、食料確保だ。
食費を節約できて、レベルも上げられて、売れば金が手に入る。一石三鳥である。
自分で行動するのは面倒なので、寄生プレイヤーにでもなりたいのだが、レベルが上がるだけで実力は身につかないので仕方なくこうして外に出ているのだ。
「あー、だりぃ。『建築』、っと」
牛のモンスターが突進してきたので、石でできた壁を能力で創る。
案の定、牛のモンスターは壁に頭から突っ込んでいく。
鈍い音が響き、壁にヒビが入るが勢いがなくなったのかそれだけで終わった。
すかさず速水が錬成してくれた剣で斬りつける。慣れていないのでまだおぼつかないが、相手を斬る分には十分だった。
ぷぎーという断末魔をあげ、牛は倒れる。
そこまでして、自分がこの世界に慣れてきていることに気づき、苦笑する。
モンスターとはいえ、生き物を殺してもなんとも思わなくなるとはなぁ。
取り敢えず、倒れたままになっている牛を整地して、運ぶことにした。
……便利だなこの能力。
「テルアキさんテルアキさん。ほらほらあそこ、『スターラビット』がいますよ!」
「え、マジか」
今日の夕飯分の食料を手に入れたので帰ろうかと悩んでいると、興奮したケモミミの声が聞こえた。
彼女の指が指しているのは、『スターラビット』というモンスター。
レアモンスターに指定されており、うまい、高い、経験値豊富で初心者でも狩れる親切設計モンスター。
ケモミミが、はたまた自分かは分からないがごくり、と息を飲む音が聞こえる。
尋常ではないくらい、やる気に満ちているのを感じた。
働きたくはないのはデフォだが、それは時と金による。
「おらァァァ!」
スキルを使ったり、近づいたりしたら気付かれるかもしれない。
逃げられたらもうチャンスはないかもしれない。
だから、土下座してまで速水に作ってもらった剣を『スターラビット』へとぶん投げた。
投影スキルは町のスキルショップで購入済みだ。
「キ? キィーーー!?」
迫り来る剣に気づいた『スターラビット』が逃げようとするが、遅い。
剣はそのまま『スターラビット』の額へと吸い寄せられ、グサリ、と刺さる。
投影スキルが強力なのか、投げた剣は刺さってない部分の根元からポキリ、と折れた。
俺の心もポキリと折れた。
なけなしのプライドを捨ててした土下座が、無意味になった瞬間である。
「あばよ……相棒」
「何カッコつけてるんですか? 全然カッコ良くないです。むしろキモいです」
明後日の方向を向き、涙を流しているとケモミミの罵倒の声が聞こえる。
俺は何してもキモいのだろうか。
「あ、気にしないでください。テルアキさんがキモいのはデフォでしょう?」
心の中での疑問に、ケモミミが罵倒で返してくる。
心読むな心。怖えから。
結論。やはり、俺にはリア充など似合っていない。
***
あの『スターラビット』は百万ペルで売れた。
ペルとはこの世界の金の単位で日本円にすれば、十ペル一円位。
なので『スターラビット』は約十万円。
基本、歩合制というか、藤井曰く「自分で稼げ」らしいので、ケモミミと二人で五十万ペルだ。
おお、俺金持ち!
その後は薬草クエをずっと周回していた。地味な作業だったが、重ねるにつれ金も大分増えた。報酬が五百ペルで、十回くらい。約五百円の収入である。
……微妙。
地球でのうちの近くのコンビニでは、カツ丼は税抜き五百円だったからギリギリ食べられない計算になる。
「大漁ですね〜、当分生活に困らないような気がします」
「……そう感じさせて財布の紐がゆるくなったらアウトだ。気づいたら無くなってるぞ。ソースは俺」
あの時は本当に焦った。お年玉が一週間で無くなるとかどんだけ散財したんだよ。
まあ俺の金銭事情なんてどうでもいい。
今は十三週目になる薬草クエで、取った薬草をギルドに持ち帰るところ。
本当はモンスターと戦った方が儲けられるのだが、戦闘は面倒だし極力避けたい。
「よう坊主! また会ったな。んで、今日で何度目だそれ」
「ああ、ゴウイさん。十三度目っす」
街に入るために門をくぐる時は、門番のゴウイさんがいる。
だから、毎度毎度薬草持っているのを見られ(自分のスキルに気付かれると面倒なことになるからわざと見せているのだが)、そして毎回こうして挨拶してくれる。
「そんなことせずにモンスターを倒せば手っ取り早いんだがな。……面倒くさいんだっけか? 寝言で『働いたら負け』って言う清々しいくらいのクズっぷりだからな!」
「え、まじでそんなこと寝言で言ってるんですか。ちょっと引きます」
ガッハッハと豪快に笑いながら俺の背中を叩く。
そして、ケモミミは俺を罵倒する。
あの、俺の体も心も痛くなるんでやめてくれませんか。
「まあまあ。彼をいじめるのはそこまでにしましょう」
そう言って俺たちの間に入ってきたのは、ゴウイさんと同じく門番のセイイチさんだ。
ゴウイさんの親友らしく、どこか神崎と似たようなものを感じさせられた。……真面目そうだ。
「そうだな。可愛い後輩の頼みだ。聞こうじゃないか」
ゴウイさんがそう言い、セイイチさんに門を開かせようとした時、背筋に冷たいものを感じた。
「ーー!?」
ゴウイさんたちも何かを感じ取ったみたいで、何があってもいいように構える。
目をこらすと、遠くから魔物の軍勢が向かっているのが見えた。目視だけでも先日の倍以上はいるように感じられた。
「嘘……だろ」
この場にいる全員が驚愕する。魔物の大群が街に向かっていることに。
だが、俺が驚愕したのはそこじゃない。
「なんで……」
それの先頭に立ち、率いていたのが笠島だったからだ。
「……セイイチ。緊急事態だ。町の者を全員避難させてこい」
「え、ゴウイさん! 私もここで足止めしますよ!」
「ダメだ! お前は結婚も控えているじゃないか!」
「だけどーー」
「行けって言っているだろうが!」
「……分かりました。気をつけてください!」
ゴウイさんがそんなやり取りをしている中でも、俺はずっと向こうを見ていた。
それらは王都に向かっているわけではない。確実にこちらに向かってきている。
そして、俺以外は気づいていないが、人間であるはずの笠島がそれを率いている。
「ヤァ横川くン。久しぶりダネェ」
前とは全く変わらない笑み。爽やかな笑みにも狂ったような笑みにもとれる異常な表情。
「なんでお前がここにいる……」
「ん? 気が変わったというか。……思っていたよりキミは面白そうだったからネェ」
しれっと笠島は言う。
その態度は、いましていることがなんとも思っていないようにも見える。
「そう思ったのはあの日だったケド、それから先はそうでもなかった。あれからのキミは只々とくになにも何もせず生きていくだけ。それじゃァ僕が面白くナイ」
ーーだったら僕がキミを踊らせばいい。
ニタァと笑った笠島がそう呟く。その様子は、狂っているとしか言いようがない。
「坊主。こいつは知り合いか?」
「ああ。最悪で最低の知り合いだ」
ゴウイさんはそうか……と呟き、戦闘態勢に入る。
俺もいつでも『建築』スキルを使えるように準備し、ケモミミもまた、『強奪』スキルを使うタイミングを見計らっているみたいだ。
「さァ、僕を愉しませてクレヨ?」
魔物の軍勢との戦いの火蓋が切って落とされた。
次回もよろしくお願いします。