一人の少女の言葉により、彼ら彼女らは疑問を持つ。
言い訳させてもらうとですね、中間考査が悪くて今までパソコン触れなかったんです。
本当にすいませんでした。これからも精一杯頑張っていくのでよろしくお願いします。
拠点として選んだ街ーーウグライナの街というらしいーーに俺たちは帰ってきていた。
「で、なんでここにいんのお前?」
「その言葉はちょっとひどくないですか?」
いかにも傷つきましたよと言いたそうに、カエデはよよよと泣く。
確かにあの時拒否したはずだが、ケモミミは街の中までついてきていた。
「ったく、警備員とかにお前が獣人だってばれたらどうすんだよ」
「その件については大丈夫です。私たちと人間はある程度友好関係を築いてますから」
まあ確かに、周りの人は物珍しそうにカエデを見ているが、そこに敵意はない。
どちらかと言うと、俺に敵意の視線がある。主に「リア充爆発しろ!」とか、「なんであんな根暗野郎が」とか、「やらないか」とかだ。青いツナギの方はおかえりくださいお願いします。
「いや、それでもそう簡単に入ってもいいもんじゃねえだろ」
「獣人は入来を許可されてます」
マジか……。獣人なのに入ってもいいのか……。
「はぁ、分かった分かった。俺の負けだ」
「それじゃあ……!」
「それでも俺には仲間がいるからな。説得しないと」
「……えっ」
カエデちゃん? なにその「お前に仲間なんていたの?」みたいな反応。傷ついちゃうだろやめろくださいお願いします。
「分かりました」
ようやく俺の意見を素直に聞き入れるケモミミ。よし、それじゃあ待ち合わせ場所に行くか。ちょうど後十分くらいだし。
あとなケモミミ。俺は説得するとは言ったが……
連れていけるように説得するとは言ってない。ここから先はずっと俺のターン。つまり俺のワンサイドゲーム。
◇ ◆ ◇
「まあいいんじゃない?」
「え?」
「俺もいいと思うぜ」
「え、え?」
「仲間は多い方が効率的に動けることもあります。僕も賛成ですね」
「わ、私も賛成です」
「いやいや待て待てそれはおかしい」
あれ、確か俺って遠回しに入れないでくれって言ったよな。食費生活スペースその他もろもろの問題ちゃんと言ったよな。なんで勝手に可決されてるの?
「横川くん。時代は民主主義だよ? だから多数決で私の言っていることが正しいの」
「……いや、ここは異世界だ。日本の法なんて関係ない。あとな、お前『少数意見の尊重』って習わなかったの?」
「じゃあ横川くんの意見も取り入れて、食費削減ね」
「いや、なんでだよ」
「一人増えると食費や生活費がかかるんだよね?」
んな横暴な……。『少数派意見の尊重』じゃなくて『マイナス意見の強行』じゃねえかよそれ。
「はぁ、分かった分かった。お前のことだからどうせ変えないんだろ」
「よく分かってるね」
藤井がニヤニヤと笑う。まあなんだかんだいってこいつには世話になっている。
学校では、いつも関わろうとしてくるこいつに『ぼっちな俺に関わるとお前の評判が落ちるぞ。関わってくんな。同情とかでやってんのならやめとけ』と言ったことがあるが、こいつは関わってきた。
今までも、関わってきたやつなんて何人もいたが、そいつらは自分をいい奴を見せるためにやっていただけ。いつも自分をよく見せる舞台装置としか俺は見られなかった。だからこそ、そんな経験ばかりだったからこそ、彼女を拒絶したのだ。だけど、こいつはそれでも関わってきた。今までの嘘っぱちだらけの偽善ではなく、純粋な善意で。
だからこそ、俺は彼女を信用しているし、少しだけ信頼もしている。
そんな藤井が言ってるわけだし、別にいいか。
「それに俺が持ってきた面倒ごとだから文句は言えねえな……」
「輝明、その言い方はひどいと思うぞ」
「私は面倒ごとですか……」
ああもう超面倒ごと。魔物の軍勢持ってきたやつなんて面倒すぎて困る。や、あれは彼女のせいじゃないんだけどさ。
「つくづく素直じゃないよねえ君は」
「俺は素直だっての。前も言ったが自分の本音を隠してまで人と関わろうとする奴に比べれば超素直」
「ほら、そういうところだよ」
はて、今の発言のなにが素直じゃないのだろうか。本音を言ったつもりなのだが。
「まあいつかわかるよ」
思わせぶりな笑顔を見せる藤井。その瞳は生暖かいもので、なんというか中一の時にクラスメイトにエロ本しこまれて母ちゃんに見つかった時くらいの居心地の悪さを感じる。田中まじ許すまじ。
「それじゃあ、家もらいに行こっか」
速水の言葉で全員がハッとする。おいおいお前ら忘れてたのかよ。鳥頭かよ。
意外にも、不動産屋は近くにあったわけで、長い手続きを終えて与えられた家へと向かう。
タダで家もらえるとか冒険者超最高。働かないで家もらうとか超嬉しい。
「なんか横川くんの目に生気が戻ってる……」と、藤井。
「どうせよからぬことでも考えているのでしょう」と、神崎。
「……輝明って目さえよければ顔は整ってるんだな」と、速水。
なんだよ目さえよければって。そんな直接言われたらちょっと傷ついちゃうだろやめてくれ。
「みんなひどいですよ!」
おお風見、お前はわかってくれるのか。
あたふたとしながら抗議している風見には、なんというか癒された。結婚し……ハッ! ついプロポーズして署に連れてかれるところだった。いや、逮捕されちゃうのかよ。
「あ、急激に死んでいった」
「なんか面白いな」
「やめろ、俺のSAN値がゴリゴリ削れていくから」
「さすがテルアキさん。死んだ目はオンオフ可能なんですね!」
「うるさいケモミミ黙ってろ」
「私だけ辛辣!?」
あと、俺の目はコントロール不能である。暴走どころか常に覚醒してる。もうサードインパクトとか起こせちゃうレベル。……なにその無駄チートいらない。
「それよりみなさん、知ってますか?」
「ああうん知ってる。超知ってる」
はい会話終了。俺のスルースキルは今日も健在でした。「まだなにも言ってないでしょうが……」と、藤井がジトみで睨んでくる。流石の俺も女の子の睨みにはトラウマがあるわけで、縮こまるしかなかった。どこかの配管工みたいに。
「王都周辺で聞いた話なんですけど、異世界から勇者が召喚されたとかなんとか」
「ーーッ!? ……その辺詳しく」
「異世界から勇者が召喚されるのは何十年に一度、魔王が復活するときによくやるんですけど、今回はおかしいらしいんですよ」
「どこがおかしいの?」
「いつもなら三十人程度の召喚なんですけど、今回の召喚はそれが数十、数百組にも及んだらしいです」
「そんなに……ですか?」
数百……組?
俺たちみたいのが……?
「勇者というのはどこかの世界の資質を持った人が多い『ニホン』というところから召喚してるんです。今回もそこから比較的運動能力が高く、知能もある『ガクセイ』というものを召喚しようとしていたんですが、何者かの介入で暴走したとかなんとか。まあ人伝てですから真偽は分かりませんが……」
何者かの介入? 数百組の召喚? まてよ……そんな話を前にも聞いたことなかったか?
異世界召喚されたあと? 違う。そもそもあそこでは情報が入ってきていなかった。今でも常識中の常識しか知らない状態なのだ。
それじゃあ、その前か?
「あーー」
そこまで考えて、やっと気付いた。
確か、異世界召喚される日に聞いていたではないか。
『このごろ、全国で集団失踪が相次いでいます。幅広い年層で失踪者が出ていますが主に中高生から行方不明者が出ている模様ですーー』
そう、ニュースでやっていたではないか。
藤井や神崎たちもそれに気づいたのか、苦い顔をしていた。
それでは、その介入者は誰なのか? なぜ今なのか? そもそも目的は何なのか?
そんな疑問は家についてもなお、解消されることはなかった。
召喚魔法に介入したのは一体誰なのか?ようやく、この物語最大 (かもしれない)の伏線を張ることができました。
これからもよろしくお願いします。