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翌日から、山の道を進み始めた雄也たち一行。
ある程度は舗装されているとはいえ、起伏の激しい道のりは体力を消耗する。
けわしい道のりではあったが、休憩をこまめに取ったり、雄也が即席の覗き予防小屋を作り、そこでお風呂に入ったりしたことで、一部のものを除き、体力には余裕をもって山道を進む事が出来た。
また、途中でモンスターに遭遇したりもしなかった為、さしたる障害もなく、2日ほどかけてソソク村に到着する事が出来たのである。
ソソク村は、人口が百数十名ほどの小さな村である。
村ではジャガイモや小麦などを栽培し、それを出荷することで生計を立てている。
この世界では、実りの神ヨネダの力により、作物の成長速度が早く、苗を植えてから一月もすれば、収穫できるようになる。
もっとも、モンスターが出没することも多い周囲の状況では、畑をなかなか広げることも出来ず、自給自足は出来るものの、裕福とはいえないのが村の生活といえた。
もっとも、裕福ではない要因の一端に、作物を安値で買い叩く商人たちの仕業もあったのだが。商人たちにしてみれば、輸送の危険やコストを鑑みれば、買い叩いて高く売るのは当然であり、責められることではなかったのだけど。
「ほら、さっさと乗せな! まだまだあるんだよ!」
「ふぇーい………」
女戦士アイギーニに発破を掛けられて、『紅』の男メンバー二人は、よたよたと小麦の袋を担いで馬車に乗せる。その隣では、雄也とロッシュが同じように小麦の袋の積み込みを行っていた。
いわゆる協力の一環であり、これが終わったら、雄也たちは自分の馬車の分も積み込みを行わなければいけないが、体力的には、充分に余裕があった。むしろ、覗きの罰として休憩時も休まず働かされていた、『紅』の二名の方がへばっていた。
村に到着した雄也たちは、それぞれの馬車に注文しておいた荷物を積み込んでいる最中である。これらの荷物は、山間の中継点である、コーケンの町にあるシマショー商会の倉庫に一時期収められるか、そのまま王都に持っていく手はずとなっていた。
実りの神ヨネダによって、生産サイクルが上がることにより、山間の閑散とした村への商人たちの行き来も珍しいことではなく、隊商の姿を見ても、奇異の目を向けるものもおらず、彼ら商会の人間と普通に世間話をする者も多くいた。
「さいきんはどうだね、足りないものがあれば、それを植えようと思うんだが」
「ふむ、そうですな……最近王都では焼き菓子が流行っているようですし、小麦を多く植えればいいと思いますよ」
と、農家の老人と、中年の商人が、そんな風なやり取りをしている隣で……まずはアイギーニ達の馬車の積み込みが終わった。
「はへー、やっとおわったぁ……」
と、新米の戦士ホロンがへたり込み、僧侶の青年ヒヨウも地面に座り込む。
そんな彼らを横目に、雄也たちは自分たちの馬車へとむかった。
「あ、雄也、おかえりなさい。喉かわいてるでしょ、はいこれ」
「雄也さん、汗をお拭きしますね」
雄也たちが近づくと、馬車の傍に待機していたリセラとアイリスは、雄也に近寄るなり、水を差し出したり、タオルで顔を拭いたり甲斐甲斐しく世話を焼き始めた。
ロッシュも、スピカが持ってきてくれたタオルで顔を拭いている。
そんな光景を、『紅』の男二人は、羨ましそうに見つめていた。
「いいなぁ……」
「ちくしょうもげろ」
と、そんな二人の頭に、桶に入った水をぶちまけたのはアイギーニである。
「そうやって、羨ましそうに見ているより先に、やる事があるだろお前たち! 馬車の整備、搬入した麦袋の数の確認、不足品の買出しもあるだろ! ほら、とっとと行った行った!」
「「わ、わかりましたー」」
異口同音にいいながら、仕事をしに走り去っていく男衆。そんな彼らを睨んで、ふん、と鼻で息をするアイギーニを見て、魔術師の少女フロイが首をかしげた。
「なんだか、不機嫌そうですね」
「おや、そう見えるかい」
「ええ。気持ちは分かりますけどね。ヒヨウさんもホロンくんも、悪い人ではないですけど、もうちょっと、あちらの二人くらい、しっかりしてくれれば頼りがいがあるんですが」
「本当に、惜しいねえ。雄也のほうは、リーダーじゃなきゃ、ぜひとも引き抜きたいところなんだがね」
と、そんなことをいいながら、荷の積み込みをはじめた雄也をアイギーニは目で追う。
そんな彼女の様子に気づくことも無く、雄也とロッシュは黙々と、小麦の詰まった袋を馬車に乗せていくのであった。




