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zip.7

湯気が立つお湯に満たされた浴槽。

そこに身を沈めると、じんわりと疲労が抜け出て行くような感覚を受ける。

「ああ~~、しあわせだわぁ」

「幸せですねぇ、リセラちゃん。スピカちゃんもそう思うでしょ?」

「そう、幸福」

今の時分は、食後の夜………野営スペースに作られた建物の一つ、その中に大きな浴槽をおき、女性陣が一緒に入浴している最中である。

雄也たちのパーティの三人娘の他に、この場には『紅』の女戦士アイギーニ、魔術師の少女フロイの姿もあった。

「しかしあのボウヤ、なかなか面白い事が出来るじゃないか。いつもなら、身体を洗うのは水浴びで、それも野郎どもの覗きの危険があるのに、ここにはそれも無いからな」

「はい、久しぶりにゆっくり出来ますね」

アイギーニの言葉に、フロイという少女も笑みを浮かべる。その言葉に、リセラが興味深そうな顔をして、アイギーニ達のほうによってきた。

「ん? なになに、パーティの中に覗きとかする奴がいるの?」

「ああ、うちのパーティの男二人は、助平だからな、どっちも。おそらく今回も、どうにか覗こうとしてるんじゃないか」

「……よく我慢できるわね、それ。あたしだったら、パーティからけりだしてるわ」

アイギーニの言葉に、リセラは不快そうに顔をしかめる。

そんな彼女の様子に、若いねえ、と笑いながら、お湯の中で濁酒を飲むと、アイギーニは天井を見上げた。窓もない天井と壁に多少の息苦しさは覚えるものの、覗き予防と考えれば安いものである。

周囲は密閉されているとはいえ、脱衣場に繋がる出入り口には何もなく、そこから更に外へと空気が流れているので、窒息する危険は無いのであった。

「蹴りだしたいと思わないときも無いでもないが、男なんてみんな、一皮向けば一緒だろう? だからまあ、少々のやんちゃは許しているのさ」

ちなみに、今回の『紅』男性陣の覗き作戦は、失敗に終わる。

浴場の入り口は、ロッシュが見張っており、それならばと建物の裏に回り、壁に穴を開けて覗こうとするも、壁自体に穴があかないという体たらくであった。


「……なにかゴリゴリって音がしますね」

「たちの悪いネズミでもいるんだろ、それより、一つ聞きたいんだが」

壁に視線を向けて怪訝そうな顔をするアイリスに、そう返答をすると、アイギーニはリセラに顔を向けた。

首までお湯に浸かっていたリセラに、アイギーニは真剣な顔で質問する。

「明日からもこうやって、まいにち風呂には入れるんだろうか」

「毎日? うーん……それはちょっと無理なんじゃない? いつも一緒にいるあたしたちでさえ、何日かに1回で、後は水浴びとかで我慢してるんだし」

「………駄目なのか?」

「駄目というか、水も火も、毎回用意するのが大変なのよ。水を温めてる焼いた石自体は、火にくべれば何度でも使えるんでしょうけど」

「つまり、水の確保と、火をおこす労働力が必要ってことだね」

アイギーニはそういうと、湯船から立ち上がる。この場の誰よりも大きい双丘が派手に揺れて、リセラやアイリスに感嘆の溜め息をつかせた。

「いったい、何を食べたら大きくなるのかしら」

「リセラちゃんはまだ良いじゃないですか。私なんて比較することすら出来ないくらいの差がありますし――――あれ、どちらにいかれるのですか?」

浴室から出て行こうとするアイギーニにアイリスが質問すると、豊満な体躯の女は、にやり、と肉食獣の笑みを浮かべて、こういったのである。

「なに、ちょっと労働力を手に入れにな」


それからすぐに、

「やっぱりいたか、何やってるんだお前たち!」

「まずい、見つかった!」

「あ、あわわわ、アイギーニ様っ、これは、そのう……」

というやり取りと共に、悲鳴と暴力の音が、壁越しにリセラたちの耳にも入ってきたのであった。


「――――というわけで、こいつらに罰として、今後、毎日風呂を用意させるつもりだ。だけど、護衛の仕事中だし、水源を毎日捜すのも難しいからな。今からボウヤの力とやらで、水をためるのを手伝っちゃくれないかい?」

「………なるほど、話しは分かった」

宿泊用に、雄也がいくつか作ったプレハブ風の建物。

女性の入浴が終わるまで、そちらで時間を潰していた雄也は、ボロボロになった男性二人を連れてきたアイギーニの説明に、静かな声でへたれこんだ男達を見る。

僧侶の青年ヒヨウ、戦士の少年ホロン。両者共に、アイギーニに絞られたのか、顔や頭、腕など、あちこちあざを作っていた。

「一つ聞いておきたいが、未遂、ってことで良いんだな」

「ああ。あたしが捕まえた時は、覗きも出来ずにまごついていたからね、こいつら」

「それはよかった。もし、リセラ達の裸を除いてたら――――両手両足を縛って川に流すくらいはしようと思ってたからな」

と、顔色を変えずに剣呑なことを雄也は言い、据わった目で男達を見た。

「別に他人が他人を覗くのは止めないけど、もしリセラやアイリス、スピカに危害を加えるようなら、こちらにも考えがあるからな」

腹のそこに響くような声の雄也に、本気の気配を見たのか、男二人は震え上がる。

その様子に、アイギーニは楽しそうな笑みを浮かべると、男達の頭をそれぞれ一つずつ殴ってから、雄也に向きなおった。

「ま、もしそんな事があったら、あたしがケジメをつけるよ。それで、さっき話した水の件は受けてくれるかい、雄也?」

「………わかった。受けよう」

「ありがとな。ほら、お前たち! いつまでへたってんだ、さっさと起きな!」

アイギーニに急かされて、二人の男はよろよろと起き上がった。

これから彼らは、冷たい夜の川で水汲みを行うことになるのだが、覗きの罰ということであれば、誰も同情をしなかったのである。


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