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zip.6

雄也たちのたどり着いた野営地は、獣避けの柵が立ち並んだ長方形の空間であり、車が数十台は止まれる駐車場を連想させるスペースであった。

砂利と土の地面に、生える草は少ない。近くには山から流れ出た川があり、野営をする冒険者などは新鮮な水をここから汲む事が多かった。

「そういうわけだから、さっさと水を汲んできなさい。道中の飲み水にも使うんだから、この樽いっぱいになるまで休むんじゃないわよ」

「は、はいぃぃ~~」

『紅』の一番の下っ端であるホロンは、リーダーであるアイギーニにどやされ、両手にバケツを持ったまま駆け出した。その後に、雄也が続いて走っていく。

「おーい、行くのはいいが、俺をおいていかないでくれ。川の場所が分からないんだから」

「はてさて、どのくらい役に立つのかねえ、あのボウヤは」

ホロンと一緒に水汲みに走っていく雄也を値踏みするような目で見ていたアイギーニだが、そのまま何もしないのも手持ち無沙汰であり、何とはなしに野営スペースをぶらぶらと歩くことにした。

そうして、2台並んで止まっている馬車の近くに来た時である。


「燃やせー燃やせー、真っ赤に燃やせー、いかるー、こころに火をつけろー」

などと歌いながら、シスターの少女が盛大に焚き火に薪をくべている。

時刻はまだ夕暮れであり、暖を取るにも明りをともす意味合いでも、こうまで盛大に焚き火を行う必要はなかった。

見ると、焚き火には多くの石が熱せられ、赤く煌々と染まっているのが見えた。

「なんだい、ありゃ。何かの儀式でも行ってるのかねぇ」

「アイリスー、そこらの森から燃えそうな枝と、石を拾ってきたわよ」

「あ、どうもです、リセラちゃん」

アイリスは、リセラから枯れ木の枝と石を受け取ると、躊躇無く焚き火に放り込んだ。

たちまち火の勢いは増し、炎の勢いは更に強くなった。

「うーん、いい具合に焼けてますね。これだけあればいいでしょうか」

「なあ、あんたら何をしてるんだい」

興味がわいたアイギーニが、焚き火の傍に近寄って聞くと、アイリスは人当たりの良い笑顔を浮かべながら、軽く頭を下げる。

「あ、どうも、『紅』の方ですね。ええと、これは雄也さんがお水を汲みにいったと聞いて、準備をしているんです」

「準備、って、何のだい?」

「それはー、お風呂です! こうして真っ赤に焼けた石を、お水に放り込んでお湯にするためにひたすら焼いているのですよ」

「……あたしが言うのもなんだが、鬼か、あんたら。川からバケツで水を汲むのを何回くりかえせば、風呂に使えるくらいの水が取れるっていうんだよ」

そのアイギーニの言葉に、アイリスとリセラは顔を見合わせると、

「何回って」

「1回で充分ですよね」

と、そう口を揃えていったのであった。

その言葉に、アイギーニが怪訝そうに眉をひそめると、川にいっていたホロンと雄也の二人が、バケツいっぱいに透明な玉を入れて、野営スペースに戻ってきたのである。


「あ、アイギーニ様………」

「ん、どうしたんだい、まさかもう、樽一杯になったわけじゃないだろうね」

戻ってきたホロンに、アイギーニはそういって凄みを利かせる。

睨まれたホロンはというと、ひっ、と身をすくませながら、恐る恐るといった風に、言葉を口にした。

「そ、それが、あの人が、川の水を、なんていうか――――」

アイギーニ達の目の前で、雄也はからの樽に歩み寄ると、その中にバケツに入れてあった、川の水を圧縮した玉を10個ほど放り込んだ。

そうして、樽に手をかざすと――――

「thaw」

と圧縮された水を開放したのである。ざばあ、と樽から水があふれて、思いっきり零れ落ちて地面をぬらす。それはまるで、噴水から湧き出る水のように、樽の内側からあふれ出たように見えたのである。


「さて、水はこれだけ圧縮したものがあればいいとして、まずは小屋を作るとするか」

眼前の光景をアイギーニたちが理解する前に、雄也は野営スペースの一角、何もない場所に足を向けると、そこの地面に手をかざす。

「ZIP」

その言葉と共に、周囲の地面が一段陥没し、次の瞬間、その中央部にプレハブ小屋に酷似した建物が姿を現したのである。

さすがに、あっけにとられたアイギーニ。そんな彼女のほうに向き直り、雄也はこともなげに聞いたのである。


「とりあえず、宿泊用の建物は出来たけど、男女別で寝るなら、もう一つ作ろうか?」


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