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最後尾の馬車に雄也が近づくと、周囲の様子を伺っていた一人の少年が駆け寄ってきた。
少年の名前はホロン。『紅』の最年少であり、一番の下っ端である。
「あ、あの~、なにか御用ですか?」
「ああ、君たちのリーダーと少し話がしたいんだが」
「そ、そうですか、ちょっとお待ちください。アイギーニ様ぁ」
そういって、少年は馬車のほうに走っていく。
しばらくして、先ほどの少年を付き従えた、鍛えた体躯の女戦士が雄也のもとに歩み寄ってきた。
豊満な体つきの美女で、肌を隠す面積が少ない鎧を身に纏っている。だが、色気よりもその身体から滲み出すのは、獰猛な肉食獣の気配だろうか。
年齢は雄也の3つほど上で、妙齢の美女と言っても差し障りは無い。
「あんたが、あ――――…なんだっけ」
「『割れない卵』のリーダー、雄也だ。今回の護衛クエストに関して、互いに協力できないかと、提案しに来たんだが」
「ふーん……協力ねぇ」
そういうと、値踏みするかのように、雄也の全身を無遠慮にみるアイギーニ。
雄也はその態度をあえてスルーすると、相手が何かをいう先に、提案を口にすることにした。
「もちろん、そちらの方が腕利きなのは分かっている。俺たちのほうは、トラブルになった時に役に立てる自信はないからな。だから、何か別のことで役に立ちたいと思う。雑用や、荷の上げ下ろしとか、そういった面でだ」
「……あたしは、うまい話は信じない」
雄也の言葉に、女戦士は口元に笑みを浮かべながら返答する。
「だから、まずはお前たちが役に立つのを照明してからだ。それが出来たら、協力とやらをしてやってもいい。話はそれだけだ」
それだけ言うと、アイギーニは傍らの少年の背中を手のひらで叩き、自分は馬車のほうに戻っていった。
「なるほど、先に役に立ってから、か。しっかりした考えともいえるな」
「あのー……正直、やめておいた方が良いと思いますよ? アイギーニ様は気分屋で、口ではああいっても、味方のトラブルを放っておくことも良くありますから」
と、おずおずといった様子で、そんなことを言ってきたのは、ホロンという少年である。
そんな彼の言葉に、雄也は軽く肩をすくめた。
「その時は、運が無いと諦めるしかないだろう。とはいえ、なにもしないでおくよりは、救援のあてがある、と精神的に余裕がある方がいいからな。さしあたっては、今日の野営地に付いた時に手伝わせてもらうよ」
「それは、ありがたいんですけど……いいんですか?」
『紅』の雑用面は、この少年が一手に引き受けていたので、雄也の申し出はありがたいものではあった。
困惑しつつも、嬉しそうな少年に、雄也は鷹揚に頷き、
「ああ、まかせろ」
といったのであった。
「………なるほど、もうしばらくしたら、山に登る直前にある野営用のスペースに着く。そこで、自分たちの野営準備以外に、『紅』の面々の寝床や料理を手伝うって事か」
話を終えて、仲間たちの元に戻った雄也は、先程のアイギーニとのやり取りを、かいつまんで説明した。
「ああ。何も全部手伝えってことじゃないみたいだし、寝床とかは、自分たちの分のついでに用意すればいいだろう」
「ついでに……か。まあ、あれを使わない手は無いからな」
雄也の言葉に、ロッシュは少々苦い顔をしながら返事をする。野営時に、雄也のスキルは大変重宝する、重宝しすぎるくらいであり、それを衆目に晒すのは、あまり好ましいとは考えていなかったのである。
(だからって、使わないってのも、もったいなさ過ぎるから悩みどころだな)
もう、以前の野営に戻るのは難しいんだろうな、とロッシュは嘆息する。
「では、今夜のお料理は、私と雄也さん、あと、ホロンという人で行うことにしましょうか。他のグループの人の、料理の手管を知っておきたいですからね」
「そうだな、よろしく頼むよ、アイリス」
そんな風に役割を決めながら、雄也たちは街道沿いを進む。
太陽は徐々に山間に身を沈め、日が暮れ始めるころ、雄也たち一行は、山のふもとにある、草も生えていない大きく開けたスペースにたどり着いた。
「今日の野営場所に付きましたけど、先行していた馬車の人たちはいませんね」
「うーん、これは、もっと先の場所で野営をしているのですかな。まあ、前のグループにはドワーフの方もいるし、心配することも無いでしょう」
アイリスの言葉に、御者の男はそう答える。
それからしばらく後、夕暮れの野営スペースに、最後尾の馬車が到着し、『紅』の面々も姿を現したのであった。




