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zip.5

最後尾の馬車に雄也が近づくと、周囲の様子を伺っていた一人の少年が駆け寄ってきた。

少年の名前はホロン。『紅』の最年少であり、一番の下っ端である。

「あ、あの~、なにか御用ですか?」

「ああ、君たちのリーダーと少し話がしたいんだが」

「そ、そうですか、ちょっとお待ちください。アイギーニ様ぁ」

そういって、少年は馬車のほうに走っていく。

しばらくして、先ほどの少年を付き従えた、鍛えた体躯の女戦士が雄也のもとに歩み寄ってきた。

豊満な体つきの美女で、肌を隠す面積が少ない鎧を身に纏っている。だが、色気よりもその身体から滲み出すのは、獰猛な肉食獣の気配だろうか。

年齢は雄也の3つほど上で、妙齢の美女と言っても差し障りは無い。

「あんたが、あ――――…なんだっけ」

「『割れない卵』のリーダー、雄也だ。今回の護衛クエストに関して、互いに協力できないかと、提案しに来たんだが」

「ふーん……協力ねぇ」

そういうと、値踏みするかのように、雄也の全身を無遠慮にみるアイギーニ。

雄也はその態度をあえてスルーすると、相手が何かをいう先に、提案を口にすることにした。

「もちろん、そちらの方が腕利きなのは分かっている。俺たちのほうは、トラブルになった時に役に立てる自信はないからな。だから、何か別のことで役に立ちたいと思う。雑用や、荷の上げ下ろしとか、そういった面でだ」

「……あたしは、うまい話は信じない」

雄也の言葉に、女戦士は口元に笑みを浮かべながら返答する。

「だから、まずはお前たちが役に立つのを照明してからだ。それが出来たら、協力とやらをしてやってもいい。話はそれだけだ」

それだけ言うと、アイギーニは傍らの少年の背中を手のひらで叩き、自分は馬車のほうに戻っていった。

「なるほど、先に役に立ってから、か。しっかりした考えともいえるな」

「あのー……正直、やめておいた方が良いと思いますよ? アイギーニ様は気分屋で、口ではああいっても、味方のトラブルを放っておくことも良くありますから」

と、おずおずといった様子で、そんなことを言ってきたのは、ホロンという少年である。

そんな彼の言葉に、雄也は軽く肩をすくめた。

「その時は、運が無いと諦めるしかないだろう。とはいえ、なにもしないでおくよりは、救援のあてがある、と精神的に余裕がある方がいいからな。さしあたっては、今日の野営地に付いた時に手伝わせてもらうよ」

「それは、ありがたいんですけど……いいんですか?」

『紅』の雑用面は、この少年が一手に引き受けていたので、雄也の申し出はありがたいものではあった。

困惑しつつも、嬉しそうな少年に、雄也は鷹揚に頷き、

「ああ、まかせろ」

といったのであった。


「………なるほど、もうしばらくしたら、山に登る直前にある野営用のスペースに着く。そこで、自分たちの野営準備以外に、『紅』の面々の寝床や料理を手伝うって事か」

話を終えて、仲間たちの元に戻った雄也は、先程のアイギーニとのやり取りを、かいつまんで説明した。

「ああ。何も全部手伝えってことじゃないみたいだし、寝床とかは、自分たちの分のついでに用意すればいいだろう」

「ついでに……か。まあ、あれを使わない手は無いからな」

雄也の言葉に、ロッシュは少々苦い顔をしながら返事をする。野営時に、雄也のスキルは大変重宝する、重宝しすぎるくらいであり、それを衆目に晒すのは、あまり好ましいとは考えていなかったのである。

(だからって、使わないってのも、もったいなさ過ぎるから悩みどころだな)

もう、以前の野営に戻るのは難しいんだろうな、とロッシュは嘆息する。

「では、今夜のお料理は、私と雄也さん、あと、ホロンという人で行うことにしましょうか。他のグループの人の、料理の手管を知っておきたいですからね」

「そうだな、よろしく頼むよ、アイリス」

そんな風に役割を決めながら、雄也たちは街道沿いを進む。

太陽は徐々に山間に身を沈め、日が暮れ始めるころ、雄也たち一行は、山のふもとにある、草も生えていない大きく開けたスペースにたどり着いた。

「今日の野営場所に付きましたけど、先行していた馬車の人たちはいませんね」

「うーん、これは、もっと先の場所で野営をしているのですかな。まあ、前のグループにはドワーフの方もいるし、心配することも無いでしょう」

アイリスの言葉に、御者の男はそう答える。


それからしばらく後、夕暮れの野営スペースに、最後尾の馬車が到着し、『紅』の面々も姿を現したのであった。


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