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雄也たちが護衛する荷駄隊の総数は6。
そのうち、前方の2台を『熊殺しの一団』、中央の2台を『鉄酒』、前から5台目の荷駄を雄也たち『割れない卵』、最後尾の1台を『紅』のグループが受け持つことになった。
軍隊でなく、荷駄が一糸乱れないようにするのは難しい。そのため、各個に判断できるような編成にした――――といえば聞こえがいいが、冒険者同士のグループの仲が悪かった為に、こういう形になったといってよいだろう。
最前列の2台は、他を大きく引き離して大きく前進しているし、中央の2台も、足が比較的遅い後方の2台を放って先に行ってしまった。
荷駄隊の護衛、と聞くと、ピシッと決まった護衛の風景を思い浮かべるものも多いが、現実はこんなものであった。
「青い空、流れる雲、飛ぶ鳥たち――――のどかですねえ」
「いや、まったくですな」
とことこと、道に沿って馬車は進む。オルクスの街を出てから北に数時間。前方には平原が広がっており、もうしばらくすると北と北東に分岐する道がある。そこから北東に進み、山を越えて村々や町を回り、王都に付く手はずであった。
雄也たちの護衛する5番目の馬車は、中年の三段腹の男が御者をしている。名前はデンチー。妻帯者であり、年頃の娘がいるとのことである。
体力の無いスピカは、空になっている荷台に乗り、御者席の空いているところに、アイリスが座り、他の3名は周囲の警戒をしながら徒歩で歩いていた。
ある程度歩いたら、交代で休憩をする予定である(ただしスピカを歩かせると持たないので除く)。
「しかし、前方に何も見えなくなっちゃったけど、飛ばしてるわねー」
「護衛してくれる方たちの人数が多いからですからね。これが1つのグループなら、前方がゆっくり進むなりして、歩調をそろえなければいけないのですが」
リセラの言葉に、御者のデンチーがそう答える。
周囲の平原を見渡しながら、雄也は後方を見た。草原では、遠目にモンスターを見ることはあっても、街道沿いにはよってこない。
モンスターにも知能があるのか、あるいは本能的に、人間の往来の多い街道は危険と判断しているのかもしれない。
その街道、雄也たちの通ってきた道に、ゆっくりと彼等のあとについてくる、最後尾の馬車があった。
「ん、どうした雄也。後ろの馬車が気になるのか? まあ、見た目は悪くは無い連中だからな」
雄也の隣で歩を進めながら、ロッシュが聞いてくる。
最後尾の馬車を護衛する一団は『紅』というグループであり、メンバーは4人である。逞しい体躯の女戦士アイギーニをリーダーに、魔術師の少女フロイ、僧侶の青年ヒヨウ、戦士の少年ホロン。以上4名で馬車の護衛についていた。
「で、女戦士と魔術師の娘、どっちが好みだったんだ? 俺としては、やはりこう、胸が大きい女戦士の方がいいな」
はっはっは、と大きな声で笑うロッシュ。雄也はその問いに答えるつもりは無かった。うかつに答えたら、どこからかクロスボウの矢が飛んでくるような気がしたからである。
「そういうのじゃなくて、前方の馬車が見えなくなったし、俺たちは後方の面子と出来るだけ離れないようにして、いざとなったら協力できないかと思ってな」
「ん、そうだな……たしかに、俺たちだけよりはその方が安全だな。まあ、向こうが、足手まといなんていらないとか答えるかもしれんが、どうする?」
「とりあえず、俺が話をしてくる。馬車の護衛は任せれるか?」
「おっけー、まかせとけ。リセラの嬢ちゃんも、それでいいな」
「いいわよ、巨乳好き(ロッシュ)」
「おい、なんか不名誉な呼ばれかたをしたような気がするぞ」
と、そんなやり取りをしているリセラとロッシュをおいて、雄也は後方の馬車に向かうのであった。




