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雄也とロッシュが会議に顔を出していた頃、リセラとアイリス、スピカの3人は街で護衛クエストの為の買い物をしていた。
旅や、街を離れてのダンジョン探索などで使う食料や水、諸々の物資の準備は冒険者の自己負担であり、そういったものを依頼者が出すことは稀である。
その分、実入りはよいが、初期費用をだせるかどうか、というのも、そういったクエストに参加するために必須条件とも言えた。
ちなみに、雄也たちは経済的に余裕はあるほうで、その理由は武器や防具の一部を自作しているからである。
冒険者の持つ武器や防具は高価なものが多く、ローンを組んで日々返済に追われている者も多い。武器や防具に借金、クエストを請け負う準備に借金……と、酷い状況になる者もけっして少なくは無かった。
「ニンジン、ジャガイモ……野菜に果物っと。解凍したとき、見た目があれになるけど、ある程度は圧縮して持っていけるのは便利よね」
「雄也さん様々ですね。2週間分の水と食料を用意するだけでも、かなりかさ張りますからね、普通は」
市場をめぐりながら、リセラとアイリスは会話をしながら、買い物を続ける。むろん、かよわい(自称)女性陣がたくさんの荷物を持つことも無く、雄也たちの宿に届ける手はずになっていた。
リセラとアイリスの後ろをスピカが無言で付いていく。会話に積極的に加わるつもりは無いようだが、話を向けられると返事をするくらいはしている。
「あ、そうそう、スピカちゃんはチーズのブロックだったけど、それって牛のチーズで良かったんだっけ?」
「良い。できるなら、キングバッファローの乳で作ったものが望ましい」
「ふーん。あ、おじさーん、キングバッファローのチーズってある?」
そんなことをしながら、かしましい一行は買い物を進めていった。
そうして、一通り買い物を終えようとしたときである。
「あ」
「どうしました、リセラちゃん」
リセラが足を止め、傍らの店に目を向けた。そこは服屋のようで、仕立てなども行っていると看板に書いてある。
「リセラちゃん?」
無言で考え込んでいるリセラに、アイリスは声を掛けるが、返事はない。
そうして、リセラは意を決したように顔を上げると、服屋の中に入っていった。
その様子に、アイリスとスピカは顔を見合わせたが、すぐにあとをおって服屋の中に入ることにしたのであった。
服屋の中は、色取り取りの素材で出来た、さまざまな衣料が並んでいる。
そこそこ流行っているようであり、店内の客は若い女性が中心のようであった。
「あ、あんなとこにいましたね。おーい、リセラちゃん」
「うーん……白か黒か……黒の方が汚れが目立たないし、長く使えそうだけど」
店の隅のほうにいるリセラに、アイリスが近寄ると、そこには下着を前に考え込んでいるシーフの少女の姿があった。
「でも、雄也は喜んでくれるかしら? こういった下着に気合をこめるのも、何か空回りしている気がしないでも……」
「そんなことないですよっ!」
「ひゃっ、アイリス、いたの?」
「居たのも何も、さっきまで一緒に買い物してたじゃないですか、私も、スピカちゃんも」
アイリスが呆れると、そういえばそうだったわね、とリセラは視線を再び下着に向ける。
「まあ、なんというか、贅沢をするってわけにもいかないけど、こういう所は、やっぱり気を使う方が良いんでしょうね」
「それはそうですよ。閨の中で殿方を喜ばせる為の努力、そこに気が回るとはさすがリセラちゃんです。でも、こういったものはお高いですからねえ」
「ええ、そうなのよ。見てよこれ。これ一つで、普通の上下が4着は買えるわよ」
フリルやら何やらが付いた下着を指差し、信じられないといった風に言うリセラ。と、
「それと似たようなのなら、ロッシュからもらった事がある」
「「!?」」
ぼそり、とスピカがそんなことを口にして、ぎょっとしたリセラとアイリスがスピカを見る。そんな視線を意に介さず、スピカは中空に視線を向けて、ぼそぼそと言った。
「たしかに、あれをつけてたときは、すごかった」
「………ええと、それで下着のことですけど」
そのまま放っておいたら、何やらとんでもないことを口走りそうなスピカの言葉をスルーして、アイリスはリセラに顔を向ける。
「よろしければ、私が自作しましょうか? さすがにまったく同じものは無理ですけど、その方が安上がりだと思いますよ?」
「へえ、そんなことが出来るんだ」
「それはもう、教会なんて貧乏ですから、衣類のつくろいや自作しないと、とてもやっていけませんし」
まあ、こういう事が出来るようになるんですから、貧乏も悪くないですよねー、と、明るい声でアイリスは笑った。
たくましいなあ、と、幼馴染にそんな感想を抱きながら、リセラはうーん、とうなる。
「しかし、下着ねぇ……服とかなら自作してもらいたいところだけど」
「あ、ひょっとして不安ですか? 大丈夫ですよ、リセラちゃんの現在のサイズはしっかり把握してますし」
「おい、ちょっとまて、親友」
「あ、どうせなら雄也さんの下着も作りましょうかねぇ。それを渡したときの雄也さんがどんな顔をするのか楽しみ――――あいたっ」
わくわく顔のアイリスの膝に、容赦のないローキックをリセラは叩き込む。
まったく持って、口は災いの元というべきであった。
なお、そんな二人をよそに、スピカは一人、色々なタイプの下着を物色していたのであった。背丈はともかく、胸がパーティで一番大きいので……上は合うサイズが無く、断念したようであったが。




