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zip.29

屍人の群れが、山に敷かれた街道を進んでいく。

生きている人間に比べ、身体能力では勝っていても、屍人には段差を乗り越えたり、器用に木々の間を潜り抜けたりする事が難しい。

そのため、敵の進軍する速度と位置が、把握しやすいのが、迎え撃つ側にとっての利点といえた。


日の暮れはじめる夕刻、あと1時間もあれば、コーケンの町に到着するであろう屍人の群れに、冒険者たちが立ち向かった場所は、なだらかな丘が周囲に広がる、開けた場所であった。

「撃て撃て!」

掛け声と共に、屍人の群れに、十人ほどの冒険者が矢を射掛ける。だが、通常の生物ならともかく、死人に矢は効果が薄く、逆に、屍人たちの興味を引いたかのようである。

屍人の群れが、冒険者たちに迫るが、彼らに慌てた様子は無い。

「よし、まだ、まだだぞ」

むしろ落ち着き払って、眼前の死人の群れに対応しているのには、死んでいる相手に慌てたふりをしても、引っかかってくれるか怪しいところがあったからだ。

そう、彼らは、屍人の群れを罠にはめる為に、こうして身体を張っていたのである。

屍人の群れが肉迫し、手の届きそうな範囲まで近づいたときである。

「よし、いまだ雄也!」

「thaw!」

ロッシュと雄也の声と共に、冒険者たちの眼前まで迫っていた屍人の群れは、瞬時に消えた。

屍人たちの足元が消失し、彼らを奈落のそこに落としこんだのである。

仕掛けは単純であり、深さ20メートル、幅は縦が13メートル、横が25メートルと、底の深い25メートルプールのような落とし穴を掘り、その上に、地面に擬態させた板を張った、簡易の落とし穴を作って待ち受けていたのである。

落とし穴に落ちた屍人の総数は50近く。全体の半数を落とし穴にはめたことで、戦局はいくばくかましになったように思えた。

落とし穴に落ちた屍人の群れがうごめく。彼らがもし、臭いを察知する事が出来たなら、落とし穴の底に巻かれた、油に慌てたことだろう。

「よし、火矢を放て!」

誰かのその掛け声と共に、幾条もの火線が、穴の底に吸い込まれていき、燃え広がった。

屍人たちが炎に包まれ、冒険者たちの間から歓声が上がる。


「よし、なかなか上手くいったな、雄也」

「ああ、だけど、相手はまだまだ数が残っている。とはいえ、まともにやり合ったら、一部の面子を除いては確実に命が無いからな。今後もこの方法で数を減らそう」

穴に落ちた屍人たちの向こう、屍人の群れは、大穴から方向を転じ、別の方向に進み始めていた。だが、最終的にコーケンの町に向かうということを考えれば、その行動経路を読むことは難しくなかった。

それから、幾度かの落とし穴戦法で、拍子抜けするほど簡単に、屍人の群れは全て、穴の底に落ちてしまったのであった。

最もそれは、規格外なサイズの落とし穴を、短時間で作る事が出来る雄也のスキルによることも多かったのだが。


だが、


「これで、屍人は何とかなったが……明らかにやばいのが残ってるな」

コーケンの町のすぐ傍。一人も被害を出すことなく、屍人の群れを殲滅できた冒険者たちだったが、歓声を上げるものは誰もいなかった。

山の奥に太陽がおち、その余光で周囲の明るさが確保できる時間帯………コーケンの町に向かって進んでくる一団があった。


自らの頭蓋骨を胸に抱き、宙に浮く少女。その傍らには漆黒の騎士がおり、7体の骸骨戦士が従っていた。

武器を手に構え、冒険者たちは前に出て、少女たちを半包囲する。

「あなたたち だれ?」

冒険者たちの剣呑な雰囲気を察してか、幽霊の少女は彼らをみわたし、ぎょろり、と目を見開く。その身体からは、どす黒い霧のようなものが湧き出し、少女は大きく口を開けて叫び声を上げた。


「おうちは すぐそこなのに じゃまをしないでよぉおぉおおお!!」

「気圧されるな、いくぞぉぉおお!!」


少女の圧力に負けじと、ドワーフが声を張り上げ、冒険者たちはその声に励まされるかのように、前に駆け出す。

それを迎え撃つかのように、漆黒の騎士が抜き身の剣を構え、前に出て、激しい剣閃が交わることになった。




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