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オルクスの街から北東の山間ルートを通り、王都に向かうことに決めた雄也たち。
そのついでに、商人の荷駄隊の護衛任務を受けることにした。
街道を通るといっても、モンスターや盗賊山賊の類、あるいは悪天候での遭難の危機など、旅には危険がいっぱいである。
そのため、リスクを減らすという意味でも、多人数での移動がのぞましいのである。
もっとも、駆け出しの冒険者にとっては、そういったリスクよりも、一緒に旅していた同行者に襲われるリスクの方が恐ろしいようで、一人で旅をする者もそれなりの数、いたのであった。
閑話休題
雄也たちの今回受けたクエストは、馬車および荷物の類を、無事に王都ベイクまで届けることである。現在の馬車は何も乗せておらず、北東にある山間の町コーケンと、その周囲の村々で物資を載せ、それを王都に運ぶという手はずであった。
荷駄用の馬車は6台。そこそこの規模のため、雇われる冒険者も雄也たちだけでなく、複数のパーティが護衛クエストにつくことになっていた。
今回の参加パーティは4つ。屈強なドワーフがリーダーの『鉄酒』、女戦士が率いる『紅』、オルクスの街で一番の規模を持つ冒険者グループ『熊殺しの一団』、そして、雄也たちのパーティである。
なお、パーティの俗称が、自己紹介に必要とのことであったため、雄也たちの間でもパーティ名に関しての討論があったが、『割れない卵』という、微妙な名前に落ち着いた。
通称、『卵』。このパーティ名が、今後、世間一般の話題に上るかどうかは、今後の雄也たちの活躍しだいであろう。
さて、護衛任務が決まったとはいえ、すぐに出発するわけではない。
今回のように、大人数での輸送任務という場合、事前に雇い側と雇われ側の代表が集まり、輸送計画について話し合うものであった。
冒険者パーティからは各2名。今回は雄也とロッシュが出席したのだが………
「だから、いってるだろ、うちはこの街で一番のパーティなんだ。一番重要なところの護衛をするのは当然だろうが!」
「ああ? 聞き捨てなら無いねえ、ボウヤ。自分のところが一番なんてのは、誰もが思ってることだけど、それを口にするってことは、喧嘩売ってるのかい?」
「まったく、これだから最近の若もんは………おい、酒が無いぞ、もってこんかい!」
それぞれの出す人選が間違っていたのか、輸送計画の会議はいきなり最初から紛糾している。それぞれの面々が、自分たちが良い場所で護衛したいと譲らなかったのである。
今回のクエストの場合、活躍に応じて報酬が変わると明記されており、それが揉め事の一環となっているようである。
競争意識をあおるつもりであったようだが、それで足並みがそろわないというのであれば、本末転倒も甚だしいといえた。
「あ、あのー……皆さん、もう少し落ち着いて話し合いをですね」
と、今回の依頼者である、シマショー商会の代表者の青年も、困りきっているようであった。
「だめだな、こりゃ。いっそ殴り合いとかで場所決めでもした方がいいんじゃないか」
「たしかに、そのほうがいいかもな。ところで、本当に俺たちは主張しなくてもいいのか、ロッシュ」
ギャアギャア、ワイワイと言い争う面々から少し離れて、雄也とロッシュは、会議の様子を遠巻きに見ていた。怒声と共に飛んできた瓶を手で受け止めながら、ロッシュは苦笑を浮かべる。
「別にしてもしなくても一緒だ。俺たちの目的は、クエストで稼ぐんじゃなくて、町や村を見て回って、住みやすそうな所を探すことだろ。だったら、護衛の件は目立って忙しい所を狙う必要もないからな」
最後の出がらしでも、お茶はお茶だ。そんな風にロッシュはいい、眼前の口げんかに近い会議の様子を、我関せず、という風に眺めている。
「なるほど。それで、俺たちはどのあたりの護衛になると思う?」
雄也が聞くと、ロッシュはそうだなー……と考え込み。
「まず最初に決まるのは、一番安全でリーダーシップが取れる中央だな。次は、前線で活躍できる前方、後方で何かあったときの殿、俺たちは多分だが、それらのどれかに組み込まれるか、空いてる部分で適当に決まるんじゃないか」
まあ、軍隊みたいに、規則正しいルールもあるわけじゃないし、パーティを混ぜると揉め事の原因になるから、どこか隙間に置かれるだろう、とロッシュは予想した。
それから数時間後、長々と話し合いと物の飛びあったり殴りあったりした結果、荷駄隊の前方を『熊殺しの一団』、中央を『鉄酒』、その少し後ろを雄也たち『割れない卵』、殿を『紅』が受け持つことに決まり、各自解散の運びとなったのであった。




