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馬車に乗り、リョトウ村からコーケンの町に向かう雄也たち。
その途中、街道を南に向けて馬車を進ませていた雄也たちは、すれ違う人々が何やら慌てている様子を見て、首をかしげた。
「なんだ? なにか様子がおかしいな……」
コーケンの町から来たと思われる人々は、多くの荷物を抱えているものもおり、中には、家財道具を荷車に載せて移動しているものもいた。
加えて、町から出て行く人数は、普段なら数えるほどであるのに対し、今は続々と、町から離れていっているのである。そんな人の群れと幾度かすれ違っているうちに、雄也たちはコーケンの町の門をくぐり、町の中に入った。
コーケンの町の中は閑散としていた。王都とオルクスの街との山間の中継点として、それなりに活気のあった町だが、今は人も少なく、皆、不安げな表情をしている。
「……これは、何か有ったな。雄也、俺はスピカを連れて、シマショー商会に話を聞きにいってみる。お前は嬢ちゃんたちを連れて、冒険者ギルドで情報を集めてくれ。俺も後からギルドに向かうが、もしギルドが閉まっているようなら『西を向く犬亭』を集合場所にしよう」
そういって、ロッシュは雄也たちをおろすと、馬車を操って町の向こう側へと進んでいった。残された雄也とリセラ、アイリスは、冒険者ギルドに向かった。
町と同様に、冒険者ギルド内は普段よりも人気が少なかった。だが、その場に充満している空気は、張り詰めており、まるで戦争の直前のような緊張感に満ち溢れていた。
「ん? おお、君たちは……三代目君はいるかね?」
ギルドの入り口で、所在無げに様子を見ていた雄也たちに声を掛けてきたのは、パーティ『鉄酒』のメンバーである、騎士ギュートである。
「ロッシュなら、今は別行動で町のシマショー商会に話を聞きに行っているところです。後で、こっちにも顔を出すと思いますけど……何があったんです?」
「ああ。行方不明になった馬車の件を覚えているか? あれ絡みで、少々やっかいなことになったのだ。行方不明者を捜索する為に、シマショー商会では数十人の捜索隊を組織して、例の『歌』が聞こえたというあたりに向かわせたのだが……」
「また、行方不明になったとか?」
雄也の言葉に、それどころではない、と壮年の騎士は険しい顔で首を振る。
「どうにも、その『歌』はやっかいな奴が出していたらしくてな。行方不明者は全員、屍人として操られていたそうだ。そして、探索隊の大半も、襲われて屍人と化したらしい」
ギュートのその言葉に、雄也の傍にいたリセラが息を呑む。アイリスも険しい顔をして、ギュートの話を聞いていた。
「奴らは、ヒシ村とコーケンの町の間に陣取り、行き交う旅人を襲って100近い数になり、さらに、東に向かって移動を開始したらしい」
「東っていうと……」
「そう、ここ、コーケンの町に向かって、ということだ。群れを率いているのは、幽霊の少女と、黒い鎧の騎士ということは分かっている。ただ、目的は今のところ、分かってはいないが」
ついでにいうと、奴らは日の光を恐れず、ゆっくりとした動きで東に今も移動中とのことであった。
「奴らの移動速度から察して、おそらくは今夜、この町に到着するだろう。人気が無いのは、逃げられる者はさっさと町から避難したということだな」
「それじゃあ、冒険者ギルドだけ活気があるのは……」
「まあ、そういうことだ。冒険者もそれなりに逃げたが、残った者達は、亡者の集団とやりあう腹というわけだ。もちろん、我々『鉄酒』も、微力ながら協力するつもりである」
「それは、賞金が多く掛けられていたりするからですか?」
雄也の言葉に、それもある、とギュートは頷く。
「だが、それ以上に、我々はこの件に関し、責任を取らなければならないと思っているのだよ。もし、例の『歌』の件をシマショー商会に言って、探索隊を出したのが原因で、今回の首謀者が目覚めたのだとすれば、責任の一端は我々にあると思わないか?」
「それは……」
ギュートの言葉に、雄也は沈黙する。例の『歌』の件は、ロッシュから仔細を聞いていた。ドワーフのギノルスが、商会に『歌』の件を報告した一端は、スピカの言葉があったこともしっている。
おそらくロッシュが来たら、『鉄酒』の面々と同じように、今回のクエストに参加するのではないか。と、雄也はそんなことを考える。そしてそれは、雄也たちもまた、亡者の群れと戦うことになるのであった。
参加する冒険者の数は、50程度。街道を進む亡者の数は100程度――――…コーケンの町を守る戦いの火蓋は、あと少しで切られようとしていた。




