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zip.22

王都ベイクから出て、コーケンの町まで続く街道を進み始めた雄也たち。

今回は、根拠地候補となる村を見ながらのたびであるが、根拠地の候補としてあげる村は二つ。王都ベイクからすぐ近くにあるリムネ村と、コーケンの町の傍にあるリョトウ村の二つである。

どちらも大きな都市に近いこともあるが、今回、馬車を引く馬を購入したことも理由の一つにある。購入した馬を世話できる人間がいる村として、シマショー商会から教えられたのが、リムネ村、リョトウ村であった。


そんなわけで、まずはリムネ村に到着した雄也たち。さっそく村の様子を見回ってみたが、感想としてはいま一つといったところであった。

「うーん、やっぱり王都の近くって立地条件は良すぎなのかな。物件代もお高いし、土地だけでもそれなりに高いってのは厳しいな」

「ああ。それに、近くに異空ダンジョンが無いってのも問題だな。王都まで行けば、それなりにクエストはあるんだろうけど、ダンジョンで稼げないのはな」

リムネ村は、王都に近いということもあり、貴族の別荘や大きな館もあり、普通の村よりも活気があり、人も多い。

その点は悪くは無いのだが、雄也の言う土地代や、ロッシュがのべた、近くに異空ダンジョンがない件など、色々とマイナスの面も多かった。

「まあ、とりあえずは保留、って所だろうな。リョトウ村が、ここより良い条件なら問題ないんだが……」

結局、候補としてはありだが、即決するほど魅力的ではなかったため、雄也たちはリムネ村を出て、街道を南に進むことにした。


護衛として同じ道を通ったが、余分に守る対象がない分、リョトウ村までの道は、雄也たちにとって幾分か気楽であった。また、リムネ村を出る前に、自前の馬車に幌をつけることにしたのも大きかった。

これにより、モンスターに出会っても、馬車自体を壁として使え、また、野営する際にも暑さ寒さなどをある程度緩和できる為、旅が格段に楽になったのである。

そうして、リムネ村をでてから数日後、途中のホウセイ村をほぼ素通りする形で、雄也たちはリョトウの村に到着したのであった。


「ほうほう、村に住みたいとな。まあ、かまわんが……空いている家は無いぞ? 土地?  村はずれに空き地ならあるけど、あそこは熊とか出るらしいからなぁ……」

リョトウの村に着いた雄也たちは、さっそく村長のもとに足を向けて、話を聞いてみることにした。結果、モンスターが時おり出没し、放置されて荒地になっている土地を、格安で提供してもらえる事になったのである。


雄也たちは、さっそくその空き地にいってみることにした。先導役として、村長の一人娘が、道案内をかってでてくれたのである。

「へえ、かなり開けた場所だな。で、どこからどこまでが、その土地なんだ?」

「このあたり全部ですよ。もっとも、住めればの話ですけど」

雄也の問いに、村長の娘サリサはそう応じる。

雄也たちの目の前には、学校のグラウンドが丸々入るくらいの土地が広がっていた。

草や石も多数転がっており、ここが人の住んでいない荒地という事が分かる。

「すめれば、って、以前住んでた人もいるって事?」

「ええ、というより、住もうとした、ってところかしらね。モンスター避けの柵を立てて、掘っ立て小屋を建てて生活しようとした冒険者達がいたわ。数日後には、柵も小屋も壊されて、行方不明になったけど」

リセラが聞くと、そんなふうにサリサは答える。その口ぶりからして、雄也達がこの場所に住むのを賛成してはいないようである。

そんな彼女の様子を見てから、ロッシュは雄也に言葉をかけた。

「なるほど。つまるところ、モンスターの襲撃さえなきゃ、この広々とした土地が使い放題ってわけだ。異空ダンジョンはコーケンの街まで行けばあるし、リムネ村よりは条件はいいな。ここで良いんじゃないか、雄也?」

「ちょっと……話をきいてたの? 簡単な柵とかじゃ、防げないモンスターが出るって言ってるのに」

ロッシュの言葉に、村長の娘は憤った様子を見せる。自分の忠告が無視されたと思い、不快感を感じているようだった。

そんな彼女に、まあまあ、と応じながら、雄也は空き地の隅に移動する。空き地の隅からは、大きな森につながっており、件のモンスターはそちらから来るようである。

「ま、つまるところは、そう間単には攻め込まれない陣地を作ればいいってことだな……ZIP!」

雄也は地面に手をかざし、土地の一部を圧縮して、一定の幅の壁と堀を同時に作ったのである。感覚としては、地面をスコップで掘り、それで出た土で壁を作るようなものであった。

「ふう、一回の圧縮で出来る壁と堀は、このくらいか……これは、大仕事になりそうだな。ZIP! ZIP! ZIP! ZIP!」

パーティメンバーはともかく、雄也のスキルを初めて見たサリサは、唖然とした表情を見せた。雄也の掛け声と共に、地面の一部が陥没し、一部が隆起して堀と壁になる。

そんなことを何十回か繰り返した結果――――

「お疲れ、雄也。これならモンスターも入ってこれないだろ」

さすがに疲れた様子で、地面にへたり込んだ雄也に、ロッシュがそう言葉をかけた。

広大な空き地の外側を守るように、壁が立ち、その外側には堀が巡らされていた。

出入り口として、壁も堀もない一角があるが、それ以外の場所からモンスターが進入しようとしても、深い堀に落ち、壁を登ることは出来ないであろう。

「さすがにしんどいなぁ……あれ、リセラやアイリスは?」

「嬢ちゃんたちなら、あっちのほうだな。間取りとかを決めているんじゃないか?」

ロッシュの指差す方向に視線を向けると、荒地の一角で、リセラとアイリス、そしてスピカがなにやら話しているようであった。

「やれやれ、気の早いことだな。俺のスキルも、使用は無制限じゃないんだけどな」

そんな風に呟きながら、雄也は地面に仰向けに寝転がる。


リョトウ村の隅、堀と壁に囲まれた荒地が、雄也達の新たなる本拠地として機能するのは、もうしばらく先のことであった。




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