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馬車の荷台を製作することにした雄也。
そのための材料は、護衛時に通った山間の森などから、適当な木や岩などをいくつか圧縮して持ってきている。
その材料を、スペースのある宿の裏手で、一度もとの大きさに戻してから、いくつかのパーツに圧縮なおして荷台をくみ上げるつもりであった。
見た目が荷台のものを作るのであれば、大きな素材一つで事足りるが、それでは荷台に似たものを作るのがせいぜいであり、車輪が回らない代物が出来てしまうのであった。
今回の場合、おおもとになる土台の部分と、スノコ状の床部分、それに車軸2本と、車輪が4つを組み合わせて作ることを予定していた。土台部分には穴が開いており、そこに車軸を通して車輪をはめ、最後に床部分をはめ込む。
そうして完成したものを動かしてみるが……
「あれ、これじゃあ駄目か」
前後に動くことは出来るが、左右に曲がる事ができないのである。
少し考えてから、雄也は土台の形を変化させた。後輪の軸を通すべき場所を下に移動させ、更にもう一つ、前輪の車軸を左右にずらす事が出来るパーツを作り、土台と組み合わせたのであった。
そうして、形状としては、ヨーロピアンカートと呼ばれる馬車に近い形状のものを、雄也は何とかこしらえる事が出来た。しっかりとした形にするため、何度も圧縮と解凍を繰り返し、チェックを行った為、精神的にはかなり疲労したのであるが。
「よし、まあこんなところだろう。あとは、みんなが馬を買ってくるだけなんだが……」
出来上がった荷台を目の前に、雄也は疲労でこった肩を回しながら、仲間の帰りを待つ。
リセラやロッシュたちは、シマショー商会のデンチーに掛け合い、馬を譲ってくれそうな相手と交渉をしにいっていた。
馬や牛などは、畜産している村から王都へ運ばれたものを、世話して管理し、値段をつけて売るのを生業としている業者がいる。都市部などで買う場合は、業者を通す分、割り増しとなるが、その辺りは致し方ないことであった。
さて、出来上がった馬車に雄也が座り、ロッシュたちの帰りを待ってから小一時間ほど。
宿の裏手のスペースにロッシュたちが姿を見せたのは、それからしばらく後のことである。ロッシュが手綱を引いて、一頭の馬を先導し、歩いてきている。リセラとアイリスは、馬の傍を歩いており、小柄なスピカは馬の背に乗っかっていた。
「よう、またせたな雄也。一番扱いやすそうな馬を譲り受けてきたぞ」
「―――……ああ。そうみたいだな」
大柄なロッシュが、バシバシと手のひらで馬の胴を叩きながらいうが、とうの馬は特に気にした様子も無く、つぶらな目でロッシュを見返していた。
「で、これが馬車の荷台か……なるほど、これに流星をつなげて引かせるわけだ」
「……流星?」
「ああ、こいつの名前だよ。アイリスの嬢ちゃんがつけたんだが、なかなか良い名前だろ?」
「正確には、赤い流星、ですけどね。本当は他にも、ロシナンテとか、マキバオーとか、色々良い名前候補もあったんですが」
と、ロッシュの言葉に、アイリスがそう補足を入れる。
「ま、その中では流星が一番だったわけだ。こいつも気に入ってるみたいだしな。な、流星!」
ロッシュのその言葉に、ぶるる、と、流星と名づけられて馬は嘶きを返す。
それを見ていたアイリスが、やっぱり、カスケードとかも良いと思うんですけど……などと呟いているが、残念ながら採用される様子は無かった。
「ああ、そうだ。流星の世話に関しては、王都にいる間は商会の方で請け負ってくれるらしいぞ。だが、根拠地を決めたら、そこで世話をしてくれる人も探さないといけないな。根拠地で休息を取らなきゃいけないのに、馬の世話で疲れたなんてことになったら本末転倒だからな」
「なるほど」
「だが、普段のこいつの世話については、俺に任せとけ。騎士になる過程で、従卒の仕事の中には、馬の世話の修行も入っていたからな」
そういって、ロッシュは自信ありげに胸をたたく。
実際、馬の大きさを見て戸惑っている女性陣はもちろん、雄也も馬の世話などした事はないため、ロッシュに頼る他ないのであった。
それから数日後、諸々の準備を終えた雄也たちは、あらためて、護衛時に通った山道に向けて、馬車を発進させた。最初は雄也とリセラが周辺を警戒し、ロッシュは御者、アイリスとスピカが馬車に乗るという分担であり、ある程度進んだら交代する予定であった。
「はいよー、流星!」
と、ロッシュが掛け声をかけると、のんびりと流星は歩き出した。馬に引っ張られて、ガタゴトと荷台も進む。荷台では、さっそくスピカが寝心地を確認するかのように、横になっており、アイリスがそんなスピカの頭を膝枕していたのだった。




