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「ほらほら、あんた達もっと呑みな! 雄也、呑んでいるかい?」
ギルド内の食堂での酒宴。和気藹々とした空気で、酒を呑むものとノンアルコール飲料を口にするものがいる中、酒瓶を持ったアイギーニが、雄也の肩に腕を回してしなだれかかってきた。
リセラとアイリスは、その様子にわずかに不満そうな表情を見せたものの、すぐに爆発するようなことは無い様である。
「ああ、楽しんでるよ。そういえば、アイギーニ達は見かけたけど、酒の席といえば……もう一つのパーティの方も顔を見せると思ったけど、いないな」
「ああ、ギノルスのおっさんたちなら、もう王都を旅立ったぜ。例の、馬車の件が気になって、様子を見に行くんだとさ」
雄也の疑問に、ロッシュがそう答える。ギノルスたち『鉄酒』は、クエスト完遂の証書を受け取った後、すぐにコーケンの町に向かったとのことである。
それを聞いたアイギーニは、呆れたように肩をすくめた。
「やれやれ、責任感がお強いことだね、あのドワーフは。もうクエストとしては、終わりって証明してもらったんだし、後始末は他の奴らに任せればいいのに」
「そういえば、アイギーニ達はこれからどうするんだ? 俺たちは、今回の護衛経路の中で、住みやすいところがあったらそこを根拠地にしようかと思ってる。だから、少し王都で休息をとったら、あの山道を逆走するつもりだけど」
「おや、そうなのか。あたし達は、王都から西にあるハルディエフにいって、そこを基点にクエストを受けるつもりだよ」
「ハルディエフ―――西海岸の大都市だったか」
「ああ。海の幸が美味いから、酒の肴にもってこいだし、ここみたいに逼塞感を感じない、よいところだよ。もし、よいところが見つからないなら、ハルディエフにも来てみるといいさ」
「……そうか、考えておくよ」
といっても、当初の予定を大きく変更する気もないため、雄也は無難にそう返事をするだけであった。
「それにしても、意外ね。もうしばらくすれば、離れ離れになるんだから、雄也を絶対に勧誘してくると思ってたんだけど」
「それは私も思いました。恋人や旦那としてだけではなく、あのスキルは便利ですし、引き抜きはあるものだと思ってました」
酒宴を始めてしばし、当初の喧騒も幾分落ち着き、飲み物と食べ物を緩やかに消費するようになった頃、リセラとアイリスが対面の席に座ったアイギーニに向かって、そんな風に言葉を投げかけた。
現在は、ロッシュとスピカが、『紅』の面々のいるテーブルに移動していて、こちらのテーブルには、雄也とリセラ、アイリスにアイギーニという面でテーブルを囲んでいる。
まだ疑っていますよ、というリセラとアイリスの視線を受けて、アイギーニは苦笑をしながら、肩をすくめた。
「まあ、そう疑うのも無理は無いけどね。雄也は、あんた達のリーダーだろ? 他のグループのリーダーを引き抜いて、空中分解されて恨みを買うのは避けたいからね。雄也だって、リーダーの責任を放り出して、引き抜きに応じることなんて無いだろ?」
逆に言えば、リーダーじゃなかったら、手段を選ばずに引き抜いてたのになー。惜しい惜しい。と、残念そうな口調でアイギーニは肩をすくめた。
「ま、そんなわけで、今回は引き抜きは諦めたってことさね。遠い将来、あたしか雄也、どっちかがパーティのリーダーを辞めたら、引き抜くなり抜かれるなりしてもいいんだけどね。あたしも今のとこは、仲間たちを先導する責任があるからね」
そういって、アイギーニは笑みを浮かべるのだった。
翌日、アイギーニ達『紅』の面々は、王都を発って西海岸の大都市ハルディエフへと向かったのであった。
そんな彼らを見送った後、雄也たちは一度宿に戻り……以前から考えていた馬車の製作と、馬の調達を行うことにしたのであった。




