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王都ベルクは城を囲む広大な町を、囲んだ城壁によって守る城塞都市である。
大きな門の前にある検問を通過した一行は、城下町を通り、シマショー商会の倉庫のある区域に向かうことになった。
「ああ~マロニエに~、歌を口ずさみぃ~花の都に~咲く勇姿~……という雰囲気じゃないですね」
「そうね、なんか思っていたよりも、活気が無いというか何というか」
「初めて王都を訪れる方の大半は、そう思うようですな」
アイリスとリセラの率直な感想に、気を悪くした様子も無く、御者のデンチーは馬車を進ませる。
整備された城下町は、手入れが行き届いているものの、露店などは出ておらず、活気のある呼び声も聞こえない。
「王都は、王侯貴族様達が住む分、上にいく余裕がないですから、どうしても保守的な空気になるのですよ」
「まあ、そういうことだな。王都で出世するには、どうしても貴族のコネが必要だし、商売するにしても後ろ盾を頼んで、御礼を払わないといけないし……それでも上にいけるか分からない。希望も何も無きゃ、鬱屈した空気も蔓延するだろうな」
デンチーの言葉に、ロッシュはそう応じると、城下町を見渡す。
着ている物は上等で、生活面での水準は高いものの、住民たちに明るい空気は感じられなかった。
「それでも、まだこの辺りはましなほうですがね。王都の端っこには、スラム街と呼ばれる場所がいくつかあります。王都に出ても生活を確立できず、食い詰め者達が集まった場所で、治安も良くありません。王都を見て回るなら、城下町までにして、スラム街には近づかない方が身のためですよ」
王都の中心に建つ城から、城下町、スラムと、外に広がるごとに生活水準と治安が下がるとのことであった。
デンチーの言葉に、雄也はなるほど、と首を縦に振った。
「別に、そのスラムって所に用事も無いですし、近寄る気もありませんよ。リセラやアイリスも、それでいいよな」
「ええ。話を聞く限り、魅力的な場所じゃないみたいだしね」
「そうですね。いくら物価が安そうでも、身の危険と引き換えにスラムにまで足を伸ばすつもりはないですね」
リセラやアイリスがそう答えている横で、ロッシュはスピカに視線を向ける。
魔術師の少女は、馬車に揺られながら、視線を城下町の外にある、スラム街にむけていたのであった。
王都の中にあるシマショー商会の物資管理区域は、巨大な倉庫が何十棟と並んでいる場所である。そこに、ようやく雄也たちの護衛する馬車が到着し、さっそく全ての荷物を降ろす作業を行った。
馬車の荷物を全て片付け終わり、ようやく、数週間にわたった護衛クエストは完遂となったのであった。
「おかげさまで助かりました。またよろしくお願いします」
そういって、デンチーが差し出したのは、一枚の紙片――――クエスト完了証書である。
護衛任務などが終わった時に渡されるそれを、最寄の冒険者ギルドに持っていくことで、報酬を受け取る事が出来る仕組みである。
なお、支払いが高額な場合は、王都ベイクや西海岸の大都市ハルディエフなどの一部の都市の冒険者ギルドのみ報酬の受け取りが可能となっていた。
もっとも、今回程度のクエストならば、どこの都市でも報酬は即日払いが可能であった。
「冒険者グループ『割れない卵』の雄也さん、お待たせいたしました。こちらが、今回のクエストの報酬となります」
王都にある冒険者ギルド内で、雄也たちは今回の報酬を受け取った。
銀貨の詰め込まれた大袋をトレーごと渡された雄也は、仲間たちの待っているテーブル席へと足を向けた。
「お、きたきた。ようやく報酬とご対面だな」
「おっきな袋ね。ま、数週間分の報酬だし、当然か」
左右についたてがあり、周囲からは見づらいテーブルのうえに、銀貨の袋が置かれ、さっそく、枚数の確認作業に入る。
同時に渡された領収書と、同じ枚数の銀貨があるのを確認したあとで、雄也たちは冒険者ギルド内の食堂に移動して、一息つくことにした。
「おーい、雄也! こっちに来なよ。せっかくだから、あんたらも一緒に飲まないかい?」
食堂には先客がいた。女戦士アイギーニがリーダーの『紅』一行である。
アイギーニの誘いを断る理由も特に無かった為、雄也たちも、アイギーニのグループの隣の席に陣取り、酒と料理を注文した。
全員に酒か飲み物が行き渡ると、アイギーニは一同を見渡して、闊達な声を上げる。
「それじゃ、色々あったけど、まずはお疲れ! 乾杯!」
アイギーニのその言葉に、雄也たちも口々に乾杯といい、手に持った杯を掲げた。
クエストが無事に終わったら、報酬を使って乾杯する……こういった冒険者のお約束は、やはり楽しいものであるといえた。




