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zip.18

休息をとった後、リョトウ村を出発した雄也たち。

今後の予定は、ホウセイ村、リムネ村を通り、一週間ほどで、王都ベイクに到着する予定である。

商会の交易路に使われている道ということも有り、街道も整備され、雄也たちが護衛する荷駄隊のほかにも、道を往来するものも多い。

人の行きかう頻度の大きい道ということも有り、モンスターに遭遇する確率も低い……はずなのであるが、

「尾根の向こうから、狼の群れがやってくるわよ。数は6頭。狙いは食べ物かしら」

「やれやれ、またか。雄也、俺はギノルスのおっさんに知らせてくる。雄也は前の面子に止まるように指示してくれ」

日頃の行いが悪かったのか、神様の誰かが機嫌を損ねたのか、ホウセイ村を過ぎた辺りから、荷駄隊はモンスターの襲撃にさらされていた。

街道に出てきたジャイアントベアと鉢合わせしたり、野猿の集団が近寄ってきたかと思えば、今回は狼の一団である。ロッシュがまたか、と愚痴りたくなるのも当然であった。


「アイギーニ、馬車を止めてくれ。狼の一団がこちらに向かってくる!」

「はぁ!? 今度は狼かい。やれやれ、次から次へと……」

雄也の言葉に、アイギーニは声を荒げると、馬車を降りる。

丘陵の道で止まった先頭の馬車に後続が追いつく頃には、狼の一団は視認出来る範囲にまで近づいていた。

「相手はマウントウルフの集団ね。幸い、6頭なら少ないほうだわ。多いときは30頭近い群れで行動することも有るらしいし」

「もしそうなったら、護衛も何もなかっただろうな。逃げるので精一杯――――いや、逃げるのも難しい状況だっただろう」

クロスボウに矢を番えながら、リセラは雄也に、そうね。と頷きを返す。

馬車に近寄ってきた狼は、大型犬と同じくらいのサイズであり、その爪も牙も、相応の威力を持っていると予想できた。

狼達の殺気を受けてか、荷駄を運ぶ馬たちが、おびえたように身じろぎをする。

「どうする? 撃っちゃおうか。なんか、当たる気がしないけど」

クロスボウの先を狼の群れの一頭に向けて、視線を外さないままリセラは雄也に聞く。

集団戦を得意とする狼は、遭遇した敵の中では、やっかいなことこの上ない相手である。

特に今回は、荷駄を守らなければならず、乱戦になったら弱い部分が狙われるのが目に見えていた。

では、どうするか……と、雄也が並んでいた時である。

「やれやれ、今度は狼とはな。熊と違い、美味くも無さそうじゃわい」

と、近づいてくる狼の集団に、たったひとりで、悠然と近寄った者がいた。

ドワーフのギノルスである。彼は、鉄で出来た全身鎧を着込み、両手斧を肩に担ぎ、散歩に出るような歩調で狼の群れに近寄っていった。

馬車群を半包囲しようとしていた狼たちは、単機で近寄ってきたドワーフを警戒してか、喉の奥からうなり声を上げると――――6頭が一斉に、ドワーフに向かって飛び掛ったのである。

「ほぉぉぉぉぉおおおおりゃあああああああああ!!」

刹那、ドワーフが雄たけびを上げると、両手に持った斧をなぎ払った。

その斬撃は苛烈であり、一頭の胴体を寸断し、もう一頭の頭部を粉砕し、赤い血のしぶきを撒き散らした。

残った狼たちは、仲間がやられたのを見てか、警戒するように足を止める。

「そこっ!」

その瞬間、隙を見逃さずにリセラの放ったクロスボウの矢が、狼の眉間に突き刺さり、命を奪う。残り3頭になった時点で、狼たちは不利を悟ったのであろう。警戒するようなそぶりを見せながら、身体を反転させ、逃げ去っていった。


「やれやれ、あたしたちの出番は無かったね。こうも立て続けにモンスターに襲われてる状況で、楽が出来るだけありがたいけどさ」

狼の群れが退散し、再度の出発準備を進める中、雄也のもとにアイギーニが近寄り、そんなことをいいながら肩をすくめる。

「護衛任務っていっても、そうそうモンスターに襲われることは無い、ってロッシュとかは言ってたけど、実際にはそうでもないんだな」

「いや、今回の護衛クエストが、幸運の女神様にそっぽを向かれてるだけだと思うけどね。今まで何度か、護衛をしたことあるけど、馬車が行方不明になったり、モンスターが連続で襲ってきたりなんて事は無かったよ」

まあ、おかげで退屈はしないけどねぇ。といいつつ、ハハハと笑うアイギーニ。

なんだかんだで、まだまだ余裕がありそうな彼女のその豪胆さを羨ましく思いつつ、雄也も再出発の準備を手伝うことになった。


その後も、散発的に魔物の群れと遭遇したり、車軸の折れた馬車を雄也のスキルで補修したりと、小さなトラブルには事欠かなかったものの、致命的な遅れが発生することも無く、コーケンの町を出てから9日後……雄也たちの守る荷駄隊の一団は、王都ベイクにたどり着いたのであった。


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