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コーケンの町を出て、リョトウ村に着いたのは、夕方になる頃である。
村の倉庫から、大急ぎで物資を馬車に搬入し、宿を取る頃には日もとっぷりと暮れていた。
「今日もお疲れ、乾杯!」
雄也がそう言って杯を掲げると、パーティのメンバーも各々に応じて乾杯を返す。
リョトウ村の宿、『ヤドリギ亭』は、雄也たちや、他の冒険者グループ、はては御者の人たちまで受け入れて、てんやわんやの状態である。
宿にある食堂もいっぱいで、給仕の従業員はもとより、経営者である若夫婦も駆け回っているのが見える。
「まったく、こんな弱い酒では満足に酔えんわい」
食堂の片隅で、今日も酒宴に興じているのは『鉄酒』の面々である。明日には村を出発するので、ロッシュなどは酒を控えているのだが、ドワーフのギノルスをはじめ、男達は特に気にする様子も無く酒を呑んでいる。
「ふむ、亭主もちとはいえ、あの腰つき……ありだな」
「ひ、ヒヨウさん……そうやって、ちょっとでも良い女の人に、色目使うの止めましょうよ……。宿屋の旦那さんが睨んでるじゃないですかぁ」
「おい、そこの馬鹿二人。あんたらは外で野宿するのが妥当かねぇ」
「うわぁぁぁ、やっぱりぃい」
別のテーブルでは、『紅』の男二人が、アイギーニにのされて床に伸びている。
そうやって、いつも通りの光景をどこでも行えるのは、冒険者という職業のバイタリティあふれるところなのかもしれない。
雄也たちもまた、テーブルの上に並べられた料理に舌鼓を打ちながら、会話の花を咲かせていたのだった。
「ギノルスのおっさんたちとは違って、俺たちゃ酒に強いわけじゃないからな、今日は料理だけで満足するとするか」
「そうね。お酒は控えめに、っと。それにしても、この宿の料理、美味しいわね」
ロッシュの言葉に賛同するように頷くと、リセラは焼き魚の切り身を口に入れ、満足そうな顔をする。川魚の淡白な白身と、焼きに使われた辛口のたれの味付けは、リセラの好みであるようだった。
「素材が新鮮なのもありますが、ご主人の料理の腕も相当なものですね。勉強になります」
「素材か……やっぱり、町と村だと違うものなのかな」
「それはそうですよ、雄也さん。収穫したばかりの作物や、しとめたばかりの獲物、釣り上げたばかりの魚がすぐに食卓に並ぶ分、村の方が良い素材を使えることは間違いないです。まあ、世の中には素材が悪くても、ものすごく美味しい料理を作れる、神の腕と呼ばれる料理人もいると、風の噂で聞いたことはありますが」
そんなことをいいながら、シスターの少女は真剣な様子でナイフとフォークを操り、料理を切り分けては口に運んでは、なるほど、こういう味ですか、と呟いていた。
どうやら、今後の自作料理の参考に、するつもりのようである。
「美味い料理か……これ一つだけでも、この村を根拠地の候補に入れる理由になるんじゃないか、雄也? もちろん、本決まりにするかどうかは、他の村を見て回ってからになるけど」
「ああ、そうだな。ロッシュの言うとおり、この村を根拠地にするのも良いかも知れない。今回は、護衛任務で通り過ぎるけど……今度きた時は、村長とか、村の偉い人に聞いて、住むことの出来る建物か、空いている土地があるか、聞いてみるのも良いな」
「建物にせよ空き地にせよ、それなりの金額が必要になるだろうし、手ごろな物件が空いていればいいんだけどな」
と、そんなやりとりをしながら、雄也たちは食事を続けた。
あらかた料理が片付いたところで、雄也たちは食事を終えて、宿の部屋に向かう。
雄也たちが『ヤドリギ亭』にとった部屋は、男女5人で雑魚寝する程度の安い部屋である。
「この部屋では、外に音が漏れるかもしれませんし、雄也さんとリセラちゃんとの3人きりでもないですし……今日は閨は無しですかね。残念ですが」
「ま、そんな日もあるわよ。でも、添い寝くらいなら問題ないでしょ。ほら、アイリスはそこね。で、雄也は真ん中で、あたしは反対側ね」
「はいはい」
素泊まりの部屋のかたすみに、雄也たちは三人で川の字になって寝転ぶ。
部屋の反対側では、さっさと寝転がったロッシュの隣にスピカがもぐりこんで、幸せそうな表情をしていた。
こうして、リョトウ村の一夜は、静かに過ぎ去っていくのであった。




