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コーケンの町に着いて2日目。
王都ベイクへ向かう護衛クエストの続きの為、雄也たちはシマショー商会の倉庫を訪れた。
倉庫には馬車が6台。行方不明になった2台の馬車の補充にと、商会のほうで新たに用意したようである。
コーケンの町から王都へ輸送する小麦、肉、その他もろもろが詰め込まれており、さらに、近場のリョトウ村をはじめ、行く先々の村々でも、物資を加えて王都ベルクに到着する予定であった。
護衛する面々は『鉄酒』『紅』と雄也たち『割れない卵』であるが、今回の編成に異議を唱えた者達がいた。
「減った馬車を増やしたのは構わん。じゃが、それならば護衛の人数も増やすべきじゃないか?」
「別に、頭数を増やせとは言わないさ。商会にも都合があるだろうからね、だけど、新しく増やした2台分の護衛料は、水増ししてくれるんだろ?」
ドワーフのギノルスは護衛の人数を増やせと、女戦士アイギーニは、報酬を増やせと、それぞれ商会員につめよっていた。
「やれやれ、あまり出かける直前に、揉めないで欲しいんだがなぁ」
「だけど、あの二人の言い分も分からなくもないわよね。てっきり、ここまで護衛してきた馬車4台をそのままかと思ったら、1.5倍だもん。人手か報酬か、増やしてもらってもよいとおもうけどなぁ」
言い合っているアイギーニ達を見て、ロッシュがそう愚痴ると、傍にいたリセラがそう反論した。
「まあ、確かに俺たちにしてみればそうかもしれないが、商会の立場からすれば、厳しいところだろ。行方不明になった物資の補填やらなにやら、出さなきゃいけないところで、俺たちに出す報酬を増やす余裕はないだろうな」
だから、諦めてさっさと出立準備に取り掛かった方がいいのにな、と、ロッシュはそんなことを言いながら、雄也のほうを見る。
言い争いで、出立準備が進んでいない『鉄酒』『紅』のグループと違い、雄也は御者のデンチーと共に、積んだ物資のチェックを行っていた。雄也と一緒に、アイリスも出発準備を手伝っている。
「雄也さん、あちらの馬車のチェック、終わりましたよ」
「ありがとう、アイリス。これで、馬車のチェック自体は終わりって所か」
「いやはや、助かりましたよ。物資の最終チェックも終わりましたし、これでいつでも出発できますね」
「ええ。とはいえ、まだまだ時間がかかりそうですけど」
そういって、雄也はいっこうに進展を見せていない、お話し合い、の現場に視線を向けた。
「ですから、私たち商会としては、皆様方全員を一まとめとして契約を結んでいたのです。ですから、行方不明で欠員が出たとしても、王都までは御三方のパーティで護衛を完遂してもらわないと困ります」
「そんな契約、聞いてないよ。そもそも、ここまでの道中であたしたちがバラバラに行動してても、何も言わなかったじゃないか」
「ええ、それでも充分、護衛任務は務まるかと思ってましたので」
「だが、実際はこの体たらくじゃ。一まとめというくくりなら、馬車2台を失った時点で、わしら全員のクエストは失敗ということになる。ここまでの護衛がただ働きになるのが嫌なら、せめて王都までは何とかしろ、か。ふん、減った人手をそのままに送り出して、また行方不明が出なければよいがな」
言葉という武器で皮肉の応酬をする様子を、雄也たちは遠巻きに見て溜め息をついた。
結局のところ、護衛役の補充も、報酬の上乗せもなく、6台の馬車を護衛して王都ベイクまでの道のりを出発したのは、それから数時間後の午後のことである。
今回は安全を第一に、6台の馬車を『鉄酒』『紅』『割れない卵』の三つのグループが一緒に守ることになり、移動速度もゆっくりである。
「ったく、しみったれた仕事だね、こりゃ」
集団の前方を守るのは、『紅』の面々であり、アイギーニはまだ不満げなようすで、馬車の隣を歩いている。
一方、最後尾は『鉄酒』が守ることになっており、雄也たち『割れない卵』は、6台の馬車の中央付近を守る手はずとなっていた。
「今日は遅い出立ですし、この調子だと、今日はリョトウ村に泊まることになりますかな」
6台ある馬車のうち、前から3番目の馬車、その御者のデンチーがそう言って、道の先を見る。王都へ繋がる山道は、今のところは緩やかに、稜線に添って続いていたのであった。




