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アイギーニ達『紅』のメンバーも、宿に泊まる際、2つの部屋を提供されていた。
もっとも、雄也たちのように男女同伴ではなく、男同士、女同士の部屋割りであったが。
宿のカウンターで『紅』のメンバーの部屋を聞き、ノックをすると、扉を開けて顔を覗かせたのは、魔術師の少女フロイである。
「あの、何の御用でしょうか」
「ああ、ちょっと、アイギーニに用があるんだが、部屋にいるかな」
「はい。少々、お待ちくださいね」
そういって、扉が閉められてから数分の後、再びドアが開けられて、雄也は部屋の中に招かれた。アイギーニは窓際に立って外を見ていたが、雄也が室内に入ると、彼のほうに振り返り、挨拶をしてくる。
「おはよう、雄也」
「おはよう。その、俺が聞くのもなんだけど、身体は大丈夫か?」
雄也が問うと、アイギーニは顔に苦笑を浮かべた。
「まだ節々が痛むけど、耐えられないほどじゃないさ」
「………その、私は席を外しますね」
そういって、雄也とアイギーニを残し、魔術師の少女は部屋を出て行った。フロイが部屋を出て行くのを見届けてから、雄也はアイギーニに向き直り、質問する。
「彼女は、昨日の夜のことは知っているのか?」
「言ってはいないさ。もっとも、聡い子だからね。何かがあったことくらいは、うすうす気がついているんじゃないか」
「―――…そうか」
「まあ、昨夜のことは、あまり口にも気にもしないでおくれよ。お互い、掘り返しても得になることじゃないんだからさ。雄也は気にしてるんだろうけど」
腕を組んで、アイギーニはそう口にする。豊かな二つの乳房が揺れて、昨夜の出来事を思い出させ、雄也を赤面させた。
「あたしにしてみれば、ちょうど良い機会だったし、貴重な経験が出来たくらいにしか思ってないさ。責任をとれとか、賠償金をよこせとかは言わないから安心しなよ」
「良い機会?」
「ああ……冒険者になって色々な町をめぐってると、いろんな奴の末路を見ることになるからね。力の有る野郎達の慰み者になったり、モンスターにボロボロにされたり……まともな初体験をすることの出来る冒険者の女は、そう多くないのさ」
アイギーニは苦々しい光景を思い出したようで、一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をするが、気を取り直すかのように、一つ息をはいた。
「そういうわけで、あたしとしても、早めにそういった事は経験したいとは思ってたんだけど、気づいたらこんな年齢になっててね。妥協するにしても、うちの男どもは問題外だったからねえ。そんなときに、雄也たちに会えたのは、幸か不幸かどっちだったんだか」
「………俺としては、アイギーニとしたことは、幸せだったけどな」
「そうか。ま、あたしも幸運だったと思うことにするよ。充分に気持ちよかったし、女としての幸せも、感じることが出来たからね」
昨夜の閨の出来事を思い出して、悩ましげに息を吐くアイギーニ。どこか蕩けるような表情をしていた彼女だが、雄也の視線に気づき、表情を引き締めて咳払いした。
「だけど、当分はああいった事をするつもりはないかな。雄也も、あたしを独占できるとか考えないようにね。そういった図々しい態度は、あたしは嫌いだから」
「了解。昨夜のことは、ここまで。明日からはいままで通りってことでいいんだな」
「ああ。あたしのことは、それでいいよ。でもさ、リセラとアイリスの二人は、ちゃんと可愛がってあげるんだよ。せっかく愛されてるんだしさ」
からかうようにアイギーニが言うと……雄也は、考えておく。とぶっきらぼうに返答をして部屋を出ていった。
雄也が部屋を出て行き、閉められた部屋の扉を見ていたアイギーニは、ややあって、静かに、ふう、と息をついた。
「あーあ……もったいないことしたか。でも、これで良かったんだろうね」
そうして、吹っ切るように大きく伸びをすると、彼女は窓辺に近寄り、外を見る。
部屋の窓から見る空は、青く、雲ひとつ無い晴天であった。




